黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第30夜
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戦いを終えたノアと千年伯爵はロードの造った夢の世界にいた。
たくさんのプレゼントの箱の中にベッドがひとつ。
そこでは伯爵が涙を流しながら眠りロードが付き添っていた。
ティキはロードの扉から顔を覗かせて声を掛ける。

「千年公は?」
「さっきまでずっと泣いてたよぉ。
やっぱり“14番目”に会うの怖かったんだねぇ。」
「なんで?やつのそばにイタイ♡ってデレてたじゃん?」
「…」

ティキの問いに彼女は微笑むだけ。

「妬けるね。
さすがうん十年一緒にいると千年公のキモチ何でもわかるんだ?
なぁ、ロード。俺らは千年公に忠誠を誓ってる。
だからどんな命令でも従うし、その役目を疑ったりしない。
でもやっぱどうしても感情ってもんがあるからさ。
“理解”したくなっちゃうんだよ。」

その部屋の近くでブックマンとラビはソファに座らされていた。
ラビはつらそうに項垂れている。

「…伯爵の招待ではないようだな。」
「お待たせしてすみません。千年公がなかなか眠らなくて。
おひさしぶり、といったほうがいいのかなぁ?
ロードがね、あなたは35年前までは先代のノアと懇意にしてたって。
なんと彼の“14番目”とも因縁があるそうで。」
「じ、じじい…」
「ふ…なるほど。
伯爵に反逆者の“14番目”を迎え入れろといわれて実は恟恟としとるわけだな。
それでワシから奴の弱点でも聞き出したいのか。」
「本気で迎え入れるワケないだろう。
“14番目”は必ず殺してやる。
でも千年公に“ハートからは死んでも守れ”といわれた。なぜ?
しかも千年公てば奴の前で“そばにイタイ♡”ってデレたんだよ!!!」
「しるかいな。」
「“14番目”のすべてが知りたい。
あなたが保持する全ブックマンのログを虱潰しにね!!」
「あぁ、“蝕(フィードラ)”の寄生蟲がJrとチャオジー・ハンの中にいることを忘れずに。
その歳でまた後継者を失うなんて嫌でしょう?」
「!?」

ラビは“また”という言葉に違和感を覚えた。


私が病室で眠っている間に上層部の会議が開かれていた。

「ハワード・リンク監査官!?」
「は、はいっ。すみません。」
「報告を。」

リンクはアレンに言われた“ごめん”という言葉を思い出し、ボーっとしていたため名前を呼ばれてハッとした。
彼は室内を見回す。
彼を呼んだのは教皇のような人物だった。

「アレン・ウォーカーの容態。
第二使徒の所在はまだ吐かないのですか?」
「!?あ、あなた方は…」
「…っ」

そこに立っていたバクも悔しさから顔を歪める。

「報告なさい、リンク監査官。」

ルベリエの冷たい言葉。
彼の隣に座るコムイも悔しそうだ。

「…か、完全黙秘です。
この数日、ウォーカーは尋問に一切答えません。
覚醒の進行も定かにできず、自白剤が入ってるのを恐れてか食事も水以外口にしない状態です。」
「狡賢いサタンめ。」
「己の立場を理解させるべきではないのか。」
「下手なことをすると羽蝶アヤが黙っていないかもしれない。
暴れられると面倒だ。」
「腹を貫かれても平然としているのだろう。多少手荒いことでも…」
「お言葉ですが神田ユウはアルマ=カルマと共に死んだのです。もう戻らん…」

言葉を遮るようにズゥが一歩前に出た。
その手には大きく形を変えた六幻。

「この数日で六幻を覆い尽くした異様な錆が適合者を失った証でしょう。
ウォーカーはただ仲間の意志を守ろうとしているだけです。
何卒…何卒彼にご慈悲を…」
「ズゥ・メイ・チャン」
「は、はっ!」
「黙れ。」

鋭い視線を向けられ室内の全員が小さく息を呑んだ。
その場の空気は凍りつき雨の音だけが響いていた。


目を覚まし荷物をまとめ、クロスが残した写真を持った私はアレンのいる牢獄へ向かう。
薄暗いその場所には見張りが数人立っている。

『お疲れ様。』

彼らに一言掛け寒い牢獄に入った。
最初に目に入ったのはバチバチッと火花を散らしながら封印され、地面に止められているティムキャンピー。
金色の光が眩しい。

『ティム…』

そしてティムから少し離れた所に白い服を着て、封じられた左手を右胸にあずけたアレンがいた。
彼は俯いて部屋の角に座って壁に寄りかかっている。

『アレン…』

私は持っていた刀と鞄を置いてそっと彼に歩み寄る。

『アレン、顔を上げて?』
「アヤ…」

鎖のついた足枷をされた両足。
それらをだらしなく投げ出していた彼はゆっくりと私を見上げた。
やっと彼の表情がわかった。私は彼を抱き締める。

『会いたかったわ、アレン。
ずっと病室にいたから来れなかったの。ごめんね…』
「アヤ…ここに来てよかったの?」
『貴方に会うことは無理矢理ルベリエに認めさせたわ。
貴方と離れるのはイヤだから。』

彼は封じられていない右手を私の背中に回す。

「やっぱり怖いよ。いつも隣にアヤがいてくれたのに今は独り。
ティムも封印されてるし、目に映るのは石の壁とそこに貼られた札、そして見張りの人たちだけ。」
『アレン…』

私はそっと彼から離れて目を真っ直ぐに見つめる。

『私はここに帰ってくるわ。
もう私たちの部屋には帰らないの。
寂しいだけだもの。いいでしょ?』
「寒いよ?」
『2人でいれば寒くないわ。
独りより何倍もマシよ。
昼間はみんなの所へ行って少しでも情報を集める必要があると思うの。
ここでは何もわからないし。』
「気を付けてね。たぶんみんなからは責められるだろうから。」
『心配しないで。』

その日からアレンの所と教団の仲間たちの元を行き来する日が始まった。
夜はアレンと2人で、毛布にくるまって抱き合って眠る。
リリーはティムに寄り添った。
リリーは大きくなれないらしい。

「あの2人、仲がいいな。」
「2人共、敵ってことだろ。」
「本当にそうなんだろうか。
ただ純粋で幼い少年と少女かもしれないぞ。」

眠っている私たちの顔は見張りの人たちも羨むほど穏やかだったという。
SAKURAは常に身に付け、左手首には神田に渡されたブレスレットが光り、髪はアニタに貰った髪留めでまとめた。
それだけで両親や神田、アニタが傍にいてくれる気がした。
鞄はティムが口の中に入れてくれている。
教団内では周囲からの視線が痛いが私は独りではない。

「アヤ、大丈夫か?」
『みんなもボロボロじゃないの。
またルベリエ長官の所へ行ってきたんでしょ?』
「だってアレンを幽閉するなんてひどいじゃないか。」
「まぁ、その所為で俺たちは非難の的なんだけどな。」

科学班のみんなが私に微笑みかける。
リーバーは疲れたような笑顔で私の頭をくしゃっと撫でる。

「俺たちにも頼れよ、アヤ。」
「そうだぞ。背負い込まなくていいんだからな。」
『…ありがとう。』

私は彼らにお礼を言うとジェリーに注文し、受け取った料理を数分で食べ終え食堂を出た。

「アヤ…」
「強がってるな…」
「仕方ないこととはわかっているが…可哀想すぎるだろ。」
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