黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第35夜
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探索部隊が目撃情報をもとに私とアレンの居場所を探り、それをリンクが妨害して道を進んでいた。
アポクリフォスも私たちも遠くには行くことなんてできていないと彼は踏んでいるのだ。
ただ彼はアポクリフォスを思い出すたびに身体が小さく震えて仕方ない。
その震えを抑えながらリンクはルベリエからの指令を思い出す。

「“14番目”は只のノアではない。
“14番目”を何者からも守り抜きなさい。
協力者に成り済まし密かに奴の信頼を得て監視するのです。」

―…“14番目”にどんな力があるというのだ?
長官や中央庁…信じていたものが“14番目”という渦に飲み込まれて狂ってゆくようだ…
ズゥ老師、そして私自身も心ではウォーカーが宿主の運命に打ち勝つことを願いながら、この手で“14番目”を助けようとしている…
私もまた矛盾している…―


アレンは硬直してしまった伯爵の前に立って息を吐いた。

「…マナ?マナ〜?お〜〜い!
やっぱ……思い出せないか…」

そのとき伯爵が少しずつアレンから後ずさった。

「なぜ我が輩をマナと呼ぶのデス?」
「…マナだから。
マナはこの世であんただけだから。あんたがオレをこんな風にしたから。」
「ちがウちがウ…」
「ま、思い出せないのならそれでも構わないけどね。」

アレンの目が真っ黒に染まりノアの殺気が放たれた。

「オレのマナ、あんたを破壊せればそれでいいんだよ。」
「チガウゥウウウウ!!
我♡ガガ輩ハマナジャ?ナイ♡」

伯爵がいつもの仮面をして頭を抱え狂ったように叫んだ途端、私とアレンの背後から探索部隊が結界装置を発動させて私たちを捕らえた。

「見つけたぞ、アレン・ウォーカー!羽蝶アヤ!!」
「ネア…!?」

【動けない…!】
【ネア!!】
【ディーヴァ…キミも動けないのか…】
【申し訳ありません!気配に気付かなくて…】
【キミの所為じゃないでしょ…とりあえずどうしようかな…】

「黒の教団である!!
降伏しろ、アレン・ウォーカー!羽蝶アヤ!!」
「教団の追手か。」

【オレも気配に気付かなかった…
まだこの身体になじめてないな…】
【私はこの世にまだ慣れていないようです…】
【歌姫は本来存在しないオレの人形だからね…】

「ネア…?」
「どけ邪魔だオッサン!!」

伯爵がアレンに手を伸ばすとファインダーに突き飛ばされた。

「ネ…ネア…」
「マナ!」
「はなれろ…はやッく…!!」

アレンがファインダーに向けて言うが聞く耳を持たない。
その途端伯爵が放った白い触手がファインダーの額を貫いた。

「吸わ…れ…る…」

そしてファインダーは砕け散った。

「逃げろって…はやく…!」
「と、溶けた?アレンてめぇ一体何を…」
「オレじゃねぇバカ。いいからさっさと…!」

伯爵はまだそのとき顔を半分だけ仮面で隠していた。
まだ半分は素顔のままだったのだ。
だからファインダーもその“オッサン”が伯爵だとは思わなかったのだろう。

「お…あ…そんな…まさかその顔…!?せ、千年…?」

生き残っていたファインダーは拳銃で伯爵の額を撃つがそんなもの無意味だ。

「おやおや大変ダ♡
アナタ我が輩の素顔をみちゃいまシタネェ〜?♡」
『わかったでしょう!?伯爵なんです、だから早く逃げてください!!』
「すす素顔って…」
「いいから走れって!喰われんぞッッ」

その言葉も空しく逃げ出したファインダーに向けて伯爵の触手がアレンの左肩と私の脇腹を貫通して伸びる。

「『ぐはっ…』」
【チッ…警告してやったのにバカが…】
【…もう手遅れです。】

私とアレンの後ろで最後のファインダーも塵と化した。

「さて何の話をしてたのでしタッケ♡」

【昔友だった男がこう云った…
肉体は魂の器にすぎず、魂とは生命の螺旋の一部であると。】
【ネア…?】
【この世に存在するすべてのものの根源は“生命の螺旋”によって成されており、それを失えば器は原始に還り消滅する。
それが世界の絶対の理であり真理なのだと。】
【生命の螺旋…?】
【そう…それは生命の可能性を引き出す力。
進化を促す希望と災厄の力。】

ネア…その螺旋のなかで最も強いエネルギーをもつのが人の魂なんだよ…

アレン(ネア)の頭の中で昔自分の記憶を守ると告げてくれた友人“アレン”がそう言った。

【こいつはそれを喰うんだ、人の魂を!】

アレンの言葉に私は目を丸くして恐怖で小さく震えた。

「おいおい、マナ。またオレを喰う気か?」
「ああ、そうそウ。その話でシタネ♡
我が輩はマナ=D=キャンベルではありませんが、彼がどこに居るかは知っていマスヨ♡」
「なに…?」
『どういうことですか、伯爵…』
「ン〜、どうしようカナ〜♡
おしえてあげよウカナ〜♡
彼はネェ〜マナはね♡
二度と戻ってこられないトコロに永久にいっちゃったんデスヨォオ♡」

アレンの脳裏にマナの笑顔が浮かんだ。

「……道化役のくせにつまらない戯れ言だな。
だけどあんたは“アレン”をみつけたぜ。
“アレン”と数年間過ごした男…マナ・ウォーカー…あれはあんただろ。」
「我が輩ジャありマセン♡」
「二度と戻ってこられない所へいったんなら…」
「我が輩ジャナイ」
「なぜ」
「チガウ」
「“アレン”はあんたと出会えたのかな?」
「チガウ」
「それはあんたが」
「チガウ!!!やはり貴方は邪魔デス、ネア!!!」

私たちに向けて伯爵が攻撃を仕掛けてくるが私もアレンも動けない。
だが攻撃は私たちに当たる前に十字のマークが入った釘のような武器で貫かれ動きを止めた。

「その姿…千年伯爵とお見受けするがその2人を放していただきましょうか。」

声の方を振り返るとリンクが立っていた。

【【!!?】】
【あれ…?】
【ネア…あの男は確か死んだハズ…】
【そうだよね…
アポクリフォスからアレンとアヤを逃がした監査官…
特殊戦闘部隊“鴉”のなかでも屈指の能力をもち、中央庁長官ルベリエの直属の部下だった男…
たしか名は……なんだっけ…?】
【リンク…ハワード・リンクです。】
【あ、そうそう!】

リンクは伯爵を札で縛り、私たちの身体を貫いていた白い触手を抜いた。

【なんて術者だ…】
【伯爵の動きを止めるなんて…只者ではありませんね。】

そのとき私たちも札で縛られ近くの建物の屋上に引っ張り上げられた。

「『いってぇ!!』」

乱暴に屋上に落とされ私たちは声を上げる。

「手荒にして申し訳ありません。
伯爵を押さえるだけでなかなかキツイものがありまして。」

リンクはジョニーも引き上げ額に札を貼っていた。
私の服に隠れていたリリーが心配そうにジョニーの周りを飛び彼の服に潜り込んだ。
私がアヤではないことに気付いているのだろう。

【さて…コイツ、どーゆう魂胆だ…?】

「そう長くはもちませんのでできるだけ遠くへ逃げ…」

ネアはアレンを演じ目に涙を溜めリンクを見上げた。

【とりあえずアレンのフリしとこ…
ディーヴァは傷口を押さえて黙って俯いてろ。】
【はい。】

「リンク…?やっぱりリンクだ!生きていたんですね…っ
…よかった、僕…ずっとキミのことが気がかりで…よかった…」

リンクは膝を曲げると座り込んだままの私たちと視線を同じにした。
そして傷があるのを見て呟いた。

「急所ははずれているようですが出血が多いですね。
伯爵も危険ですが、教団からの追手が迫っています。
ここで貴方たちが長居するのは得策ではありません。」

リンクは手を構えると私たちに向けた。

「出てきなさい、“癒闇蛇(アトゥーダ)”」

呼び出されたナマズは光を放ち、リンクが私たちの身体に手を翳すと傷が消えた。

―これが癒闇蛇…予想以上にくるな…集中しなければ気を失いそうだ…―

【え…こいつ傷を一瞬で治したの!?】
【いいえ…ただ治しただけではありません。】
【これはまるでさっきマナに喰われた時と…あれと真逆な感覚……!】
【自らの生命を私たちの身体に与えたようですね…】

「リンク?キミ…これは一体…」
「それと私にはウォーカーのフリは不要です。
というか、無駄です。
その演技力なら大抵の人間は騙せるでしょうが、私には“気”でわかるので。」
「ちょ、え…リンク、何言ってるんです…?
フリなんかしてない。僕はまだアレン・ウォーカーです。」
「今の貴方からは冷たく殺伐とした気しか感じられない。
俯いて何も話さない貴女も同じです。
私の知るアレン・ウォーカーと羽蝶アヤのそれとはまったく違う。
貴方たちは“14番目”と“歌姫”でしょう。」
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