Paradox Love(うたプリ REN)

□第6話
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私たちが歌い終わるとST☆RISHと春歌が駆け寄ってきた。
早乙女は早乙女学園の入学式の準備をするため窓から退散した。

「葵桜!」
『久しぶりね、みんな。』
「やっぱりキミもこの寮に住むんだね。」
『やっぱり…?』

レンはクスッと笑いながらも私がここに住むことになっている理由は教えてくれなかった。

「音楽学校での学びはどうなのだ。」
『楽しくやってるわ。
最初はみんなにツテで入学したんじゃないかって言われたけど、私の曲を聞かせて実力を認めさせてやったの。』
「流石だな、葵桜!」
『でしょ、翔くん!』

翔と拳をぶつけ合って笑っていると、私の背後に嶺二、蘭丸、藍が並んだ。
彼らがST☆RISHを睨みつける。

「どうしてQUARTET NIGHTの方々がここに…?」
「俺たちを担当する先輩ってまさか…」
「ハ〜イ♪みんなお待たせ〜」

そのとき私たちの頭上で明るい声がした。
顔を上げるとそこにはキラキラしたカートに乗ってこちらへ降りてくる可愛らしいドレスを着た林檎と、仏頂面の龍也がいた。

「おはよっぷ〜♪」
「衣装がキラキラ!」
「あれで男だとはある意味もったいないね…」
『同感…リンちゃんって可愛いのに男性だなんて…』
「というか、日向先生までキラッキラ…」

カートが一番下まで降りて止まると2人はこちらへ歩いてくる。

「お前らはもう生徒じゃなく芸能界を生き抜いていくプロだ。」
「これからは自ら学び自分を磨いてね。」
「しかし、分からないことや不安も多いだろう。」
「そこで貴方たちを手助けするためにこの子たちが担当につくの。」

林檎は私たち4人を手で優雅に指し示す。

「マスターコースってこういうことだったんだ…」
「葵桜ちゃん、説明して〜♪」
『私に押し付けるの、リンちゃん…』
「何のことかしら?」
『うっ…わかったわよ…
まず音也とトキヤの担当はれいちゃんこと寿嶺二先輩。』
「よろしくまっちょっちょ♪」

嶺二はピースと共に笑った。

『次に真斗とレンくんの担当はランラン。
黒崎蘭丸先輩よ。』
「チッ…」

私の肩を抱く蘭丸はオッドアイで真斗とレンを真っ直ぐ見た。

『そしてなっちゃんと翔くんには藍ちゃんね。』
「ちゃんと名前言って。」
『はいはい、美風藍先輩。』
「あの…葵桜さんは?」
『私はここから音楽学校へ通わせてもらうの。
みんなを支えつつ、一緒に成長していけたらいいなと思うわ。』
「俺たちの新曲を書いてもらうにしても近い所にいる方が楽だしな。」
「僕たちで良ければ何でも協力するよ。
葵桜の大学の課題についてアドバイスだってできると思う。」
「いつでも頼ってね〜♪」
『そういう言葉は後輩であるST☆RISHに言いなさい。』

私の言葉に嶺二は意味深な笑みを零し、蘭丸と藍は顔を背けてしまった。
林檎は春歌に向けて言った。

「ハルちゃんは困ったことがあったら私に相談して?
それに葵桜ちゃんもいるから彼女に相談してもいいかもしれないわね。
お願いできるかしら、葵桜ちゃん?」
『えぇ、私で良ければ。』
「よろしくお願いします!」
「さぁ、誰もが認めるプロを目指して頑張ってね〜」

林檎は両手を広げ蝶の羽のような衣装をキラキラさせながら立ち去った。

「なんの衣装だよ…」

翔の素朴な疑問は私たちの心を代弁してくれたのだった。


林檎と龍也が立ち去ると春歌以外の10人は男子寮へと歩き始めた。
私も彼らの住む部屋の場所などを覚えておきたかったため彼らについて行った。
春歌は女子寮に戻って片付けを再開するらしい。

「だけど僕、先輩がついてくれるなんて知りませんでした。」
「教えてくれる人がいるのはありがたいよな。」
「マスターコースに来てホントよかった♪」
「大したことねぇな、お前ら。」

那月、翔、音也の言葉に蘭丸が冷たく言い放った。
ちなみに嶺二、蘭丸、藍、そして私はST☆RISHより前を歩いている。

「人の力に頼ろうなんざ、この世界生き残れねぇよ。」
「どーしたの、ランラン〜?」
「こっちは社長命令で仕方なくやってるだけだ。
藍だってどうでもいいって面してるぜ。」
「そうだね。研究対象としてなら興味はあるけど?」
「はぁ?研究…?」
『まぁ、先輩に教わろうなんて芸能界を甘く見てるって言われても仕方ないわよね。
芸能界では自分以外信じてはいけないもの。』
「あぁ。他人の力に頼っていればいつか忘れ去られてしまうだろうぜ。
俺たちの周りには敵しかいねぇんだからな。」
『仲間を信じるのは素敵なこと…
でも他は敵か味方か自分の目で判断して正しく付き合うべきよ。』

私と蘭丸の真剣な目にST☆RISHは息を呑む。
そのとき彼らは思いだしたのだ。
私も芸能界で過ごしてきた人物だということを。
Lalaとしてモデルを務め、トキヤと共にticktockで歌ってきた…
素人同然の私が芸能界で苦労してきたことに彼らも気付いたのだろう。
すると真斗が私たちの真剣さに口を開いた。

「黒崎さん、俺たちは別に中途半端な気持ちで臨んでいません。」
「なに…?」
「覚悟ならあるよ。
それにさっきの先輩たちの歌に負けてると思わないけど?」
『また挑発的なことを…』
「てめぇ、喧嘩売ってんのかよ。上等だぜ!?」
「まぁまぁ。誰もが認めるプロになるなら、先輩に立てつくぐらいの度胸がなくっちゃねぇ〜」
「…チッ。こいつらにそんな根性あるとは思えねぇけどな。
俺はお前らを教える気はねぇ。」

蘭丸はやってられないとでも言うように私たちに背中を向けて歩き出した。

「止むを得まいな。俺たちの力で何とかするしかないな。」
「まぁ、どうしても困ったときはここにも芸能界の先輩がいるしね、イッチー?
それにキミもだよね、葵桜?」
『わからないことがあれば力になれると思うわ。
まぁ、最終手段としてだけど。』
「一ノ瀬トキヤか。HAYATOのときは随分と活躍してたよね。
葵桜とも歌ったことがあるんだっけ。
確かticktock…その頃に初めて会ったんだよね。」
『そうそう。懐かしいわ、藍ちゃん。』

私が嶺二や藍と笑みを交わしているとST☆RISHは私が少し遠い存在になってしまった気がした。

―葵桜…キミは俺と離れている間に成長したんだね…―
―私とは違って貴女は自分の足で芸能界の苦難を歩んできた…
時折見せるその真剣で冷たい目は無垢で芸能界の厳しさに私たちが汚されないことを願って…?―
―お前はいつの間にか夢を追うだけでなく、自力で曲を奏でる場まで手に入れて…
俺たちも負けているわけにはいかぬ…―

「私も自力でやるのは賛成です。」
「えーーーー!?トキヤまで!?」
「そうだな。力を付けたきゃ、自分でやんなきゃな。」
「翔ちゃん…」

翔は真っ直ぐ嶺二のもとへ歩いて行った。

「あの、先輩たちは俺たちを見守ってくれるだけでいいです。」
「えーーーー!?ホントに!?」

だが音也は残念そうに言うのだった。

「残念だなぁ…いろいろ教えてもらえると思ってたのに、寿先輩に。」
「ん!?“寿先輩”?」
『違和感が…』

私と嶺二は顔を見合わせると噴き出して大笑い。


「れいちゃんでいいよ、おとやん。」
「“おとやん”?」
「それにトッキー♪」
「!!“トッキー”!?その呼び名は…」
『トッキーって…似合わないわね。』
「五月蠅いですよ、葵桜さん。」
『ごめんごめん。』
「まぁ、望みどおり手は出さないようにするけど、何でも訊いてよね。
おとやんとトッキーはこれから同室なんだしさ。」
「同室?」
『あら、社長から聞いてない?
マスターコースでは担当の先輩と同居するのよ?』
「同居!!?」

ST☆RISHは顔を青くすると各自の部屋へと走って行った。

「賑やか…」
『楽しくなりそうじゃない。』
「葵桜は個室だからいいけど、僕は生活リズムを崩されそうでイヤだよ。」
「アイアイなら大丈夫だよ〜」

私と嶺二は笑い、藍は溜息を吐くとST☆RISHの背中を追った。
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