カミツレの涙(図書館戦争)(完)

□状況〇七
2ページ/6ページ

「ハハハッ、そろそろ昼飯に行くか。」
「隊長も一緒ですか?」
「確か食堂は別じゃ…」
「たまにはいいだろう!」

玄田の言葉に従うように私、堂上、笠原、手塚、小牧が歩き出すと柴崎も私たちの隣に並んだ。

「私も同行していいですかー?」
「あぁ。」
『ダメって言ってもついてくるんでしょ、柴崎?』
「あら、ダメなの?」
『いいえ、光栄よ。』
「こんな美人がいるんだからダメなんて言わないでしょ?」
『それくらい自信があれば清々しいよ。』
「アンタも綺麗だって自覚なさい?」
「七瀬や柴崎と一緒にいたら落ち込んじゃうよ…」
『笠原だって綺麗よ?』
「もっとお淑やかにしてみたら?」
「お淑やかな笠原?…気持ち悪いな。」
「手塚!!?」
「「「『ハハハハハッ』」」」

珍しく手塚も話に混ざって笑う背中を堂上、小牧、玄田は笑みを浮かべて見つめながら追いかける。
周囲では私たちの様子に嫉妬の眼差しを向ける隊員が多くいる。

―手塚の奴…図書隊員トップ美女の柴崎さんや七瀬と一緒に笑いやがって…―
―笠原もよく見れば可愛いんだよな…脚も綺麗だし…―
―ただあの七瀬さんも笠原も…タスクフォースなんだよなぁ…―
―てか堂上二正の恋人なんだから手出せねぇ…!―

そんなことを周囲が思っているなんて知らずに私たちは食堂へ向かい6人でテーブルを囲む。
堂上、私、笠原が並び、正面に玄田、小牧、柴崎が座った。
異様な光景かもしれないが私は自然に笑えるこの温かい空間が大好きだ。

「七瀬、楽しそうだな。どうした?」
『いえ…このメンバーでいるのが一番気楽だと思って…なんだか…家族みたいで…』

私の言葉に彼らは一瞬息を呑んだが、すぐに堂上は私の頭を自分に引き寄せて撫でた。
笠原は無邪気に笑いながら私の頬を抓む。

『ん!?私なにか変なこと言いました!?』
「いいや…」
「ハハハッ、俺たちが家族か。それなら俺が父親だな!!」
『豪快な父親ですね。』
「いつでも帰って来い。ここはお前を必要としてる場所だ。」
「七瀬さんの居場所だよ。」
「頼っていいんだからね。」
『はいっ…!!』
「誰もアンタを独りになんかしないわ。」
「家族か…ならお前は…俺たちの妹?」
『え…』
「「「「「ハハハハッ」」」」」

手塚の言葉に複雑な気持ちで声を漏らした私に彼らは声を上げて笑った。
こんな時間を守りたい…それが私の戦う理由に加わり、また私たちは午後からの業務へ向かったのだった。


そんなある日、柴崎はある男性からレファレンスを頼まれていた。
焚書についての本を探しているという彼を案内しつつ彼女は首を傾げる。

―図書館で物騒なことね…―

それから数回その男性…朝比奈と柴崎は顔を合わせることになった。
彼女から話を聞いた笠原は私と手塚を連れてある喫茶店へ足を向けた。

『どうしたのよ、笠原。』
「なんで俺たちまで…」
『午後から巡回なんだけど…』

私と手塚は午後から館内巡視の仕事が入っている。
のんびり喫茶店に行くより事務所で少し休みたいくらいだ。

「だって気にならない!?あの柴崎が図書館利用者の男の人と2人で出掛けたのよ!?」
『はぁ…まぁ、気にならないって言ったら嘘になるけど。』
「でしょでしょ!」
「…ここまで連れて来られて引き返す気もない。」
『で、どういう人なの?』
「朝比奈さんって言ってレファレンスで知り合ってお茶に誘われるようになったらしいんだけど…」

私たちは喫茶店に入るとコーヒーを頼んで席に着く。
会話の内容を微かに聞きながら笠原が彼女らを振り返るように水を飲む。

「乗り気なわけじゃなさそうだね。」
「あぁ、思い切り営業用の顔してるし。」

そのとき笠原はテーブルがあると思った場所で水の入ったコップから手を離した。
だがそこにテーブルはなくコップは落ちて粉々に割れる。

「あぁああ!すみません!!」
『バカ…』
「はぁ…」

並んで座っていた私と手塚は笠原の馬鹿さに頭を抱える。
今の音で柴崎にも私たちが来ていることがバレただろう。
こちらを一瞬見た彼女に私は両手を合わせて小さく謝った。

「こうして何度も会っていただいてご迷惑じゃないですか?」
「いいえ、別に。利用者の方のお手伝いをしているだけですし。
誤解している同僚はいるみたいですけど。」

静かにコーヒーを飲む私や手塚とは異なり、笠原はいかにもな態度で身体をビクッとさせる。

「柴崎さんはとても目を引きますからね。」

そこからも柴崎と朝比奈の会話は続き、焚書について調べていてそれが朝比奈の研究対象だということがわかった。

―ふーん…焚書ね。図書隊が過去に犯した過ちを研究し、理解を深めようってことかしら…
まぁ、私たちは正義を掲げているわけでもないし…
過去の過ちを認めたうえで図書館法に従ってるんだから別にどうってことないけど…―

暫くして彼らは喫茶店を出る。
私たちは窓からその様子を見守った。

「またお話を伺ってもいいですか?
図書館に勤める友人が他にいないもので。」
「図書館員としてお手伝いしているだけで、友人という関係ではないと思ってますけど。」
「あ、すみません。では改めて…これ受け取ってもらえますか?」

柴崎は困ったように差し出された名刺を受け取って彼と別れた。

「うわ、意外!受け取ったよ!!」
「名刺くらい貰うだろ。」
「いいや、何でもない相手なら受け流すって。」
「そうか?」
『柴崎なら情報源としていくらでも貰いそうだけど。』

そのとき手塚の携帯がメールの受信を告げた。
それは兄、慧からのもの。“今夜電話する、部屋にいてくれ”というもの。

―なんでアドレス知ってんだ…?―

「誰?」
「…関係ない。」
「はぁ、なんなのその態度!」

それから私たちは喫茶店を出て午後の業務につく。
図書館内を回りながら私はさりげなく手塚に問うた。

『…手塚、大丈夫?』
「なんのことだ。」
『さっき喫茶店でメールを受け取ってから不機嫌そうだから…
首を突っ込んでしまったようなら謝るよ。ごめん。』
「いや、気にするな。ちょっとイヤなメールだっただけだ。」
『…そう。何かあれば相談して、話くらいなら聞けるから。』
「あぁ…ありがとう。」

それ以上その話題には触れず仕事を終えると私は笠原と合流して寮へ戻った。
寝る準備を整え私はいつものように笠原と柴崎の部屋に居座る。

「七瀬、見てよコレ!」
『なぁに?…一刀両断レビュー?』
「どう思う?」
『一図書館員の私見とはいえ、図書館の公式の場に載せる内容ではないわね。』
「そうでしょ!?」

笠原が見せてくれたパソコンの画面には彼女の好きな“はじまりの国のさいごの話”のレビューが映っていた。
この本を買うときに彼女は当時の堂上に助けられた…すなわち王子様との出逢いがあったのだ。
それが子供だましだの、支離滅裂の問題の本だの、好き勝手書かれているのだから彼女が怒るのも当然だろう。
私も気になって調べてみたところ、堂上に薦められたことがある本が数冊こてんぱんに批判されていてイラッとした。

―…ムカつく―
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ