氷上のSvetlana(ユーリ!!! on ICE)

□第5話
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私とヴィクトルが付き合い始めたが、生活にそれほど変わりはなかった。
学業にも練習にも集中していたし、GPFや世界選手権を目指した。
以前と異なるのは私の寮にヴィクトルが入室を許可され、管理人に微笑みかければ合い鍵で入ることが許されたこと。
私が風邪を引いたあの日以降、彼は何かあればさらっとやってきて差し入れを置いて行ったり、いつの間にか部屋で寝ていたり…

『今日も来てたの?』

講義が早く終わり部屋に帰って来るとベッドに横になっているヴィクトルを見つけた。
彼の髪を撫でて笑うと私は台所で軽食を作る。
スープとピロシキを作っていると匂いに誘われてヴィクトルが目を擦りながらやってきた。

「うぅん…いい匂い…」
『起きたの、ヴィクトル?もうちょっと待っててね。』
「手伝おうか?」
『もうすぐだから待っててくれてもいいよ?』

スープの入った鍋をお玉で掻き回しているとヴィクトルが背後から抱きしめてきた。
まだ少し眠たいのか体温が高めなように感じる。

『危ないから離れてくれないかなー?』
「イヤだと言ったら?」
『そのときは諦める。』
「それなら諦めて?」
『だと思った。火傷しないようにしてね。』
「うん。」

長身の彼を引き摺るようにしながらスープとピロシキを完成させればヴィクトルは嬉しそうに笑う。
無邪気な彼の様子に私は小皿にスープを少しだけ入れて差し出した。

『味見して?』
「いいのかい?」

彼は味見をして頷いた。

「うん、美味しい。」
『良かった。』
「マリーナって料理上手だよね。」
『自炊しないといけないから慣れただけよ。
ヴィクトルが作ってくれる料理も美味しいよ。』
「ありがとう。」

軽食をソファに並んで食べながら何気なく私はある提案をした。

『ねぇ、来シーズンはどうする?』
「え?」
『GPFや世界選手権のエキシビション…
昨シーズンみたいに2人共優勝したらまた一緒に…』

私が言い終わる前にヴィクトルが私を抱きしめた。

『ヴィーチャ?』
「また一緒に滑ってくれるの!?」
『もちろん。』
「それなら…」

目をキラキラと輝かせる彼の様子に微笑みながら私たちはプログラムを考えるのだった。

「次はヤコフにも伝えておかないといけないね。」
『ふふっ、そうね。』

そんなシーズンを過ごし、私とヴィクトルは安定した演技で世界を魅了した。
大会で世界を飛び回れば一緒にいられる時間は少なくなってしまったが、ロシアに戻れば必ず相手のもとに最初に顔を出した。

『ただいまー!!』
「おかえり、マリーナ。GPF出場決まったね。」
『うん!』
「次は俺の番だ…」
「ワンワンッ!!」

ヴィクトルの家へ行って彼に抱きついたところ、マッカチンも乱入してきた。
マッカチンに顔を舐められて私は笑う。

『ふふっ。ただいま、マッカチン。』
「ワンッ!」
『明日からまたジョギング行こうね。』

しっぽを大きく振る様子に笑う時間は幸せそのものだった。
そうしてついにGPFが近づくと私とヴィクトルはリンクメイトのアイスダンス選手たちに声を掛けてエキシビションの演目について相談にのってもらった。

「アイスダンスの要素も入れるの?」
「難しいぞ…?」
『案外イケる気がするの。』
「誰に向かって言ってると思ってるんだい?」

ヴィクトルは得意気に私の肩を抱き寄せた。

「俺とマリーナだよ?」

そうしてアイスダンスのペアに教えてもらいながら互いの手を取ったまま同じステップを上手く踏むコツを掴み、身体を密着させて足を絡めながら魅せる方法を習得していった。

「アイスダンスってわけではないからジャンプはするんだろう?」
『えぇ。アイスダンスの要素を入れるだけだから。』

アイスダンスは氷上の社交ダンス。ジャンプなんてもってのほかだ。
だが私とヴィクトルが魅せるのはシングル同士が組む即興コラボレーション。
本格的なアイスダンスではないためジャンプも許される。

「でも2人共…優勝しないとこのプログラムやらないんでしょ?」
「そういえば…マリーナもヴィクトルもこのエキシビション以外に練習してるのか?」
『とりあえず別々の大会で演じたエキシビションがあるけど練習はしてないね。』
「大丈夫なのか!?」
「問題はないさ。だって俺たちは優勝するんだから。」

陽気に言うヴィクトルだったが私と彼の目は本気だった。
そしてGPF当日…

「有言実行しやがった…」
「GPF連勝…それも男女シングルで同じ選手が連覇するなんて…」

私とヴィクトルは揃って表彰台の頂上を陣取っていたのだ。

「昨シーズンにも見たこの光景!
GPFを連覇したヴィクトル・ニキフォロフ選手と天羽満里奈選手!!
圧倒的な強さと魅力!勢いは止まらない!!」

メダルにキスをして私は観客に手を振る。
隣に立つヴィクトルと身を寄せ合って写真を撮ったり、報道陣からの質問の嵐にも笑顔で答えてその日は解散した。
しっかり休んだ翌日にはエキシビションに挑んだ。

「昨シーズンは即興コラボレーションで驚かせたヴィクトル選手と天羽選手!
今シーズンもそれぞれのエキシビションを各地で魅せていましたが、GPFではどうなのでしょうか…注目です!!」

そんな報道陣の声をBGMに私とヴィクトルもスタンバイ。
他の選手の演技からインスピレーションを受けつつ、きちんとこれから行う自分たちの演技にも意識を向けている。
ヤコフに連れられて私とヴィクトルがリンクサイドに立つとこれから私たちが滑るとわかった観客から歓声が上がる。
ジャージを脱いで現われた衣装は黒と白のグラデーションが美しいものだった。
私の衣装は身体の右の前半分は白いミニドレスなのだが、残す左全体から後ろもすべて黒いスケスケのセクシーなレースが覆い、層になって重なる黒いスカートも風に舞いやすい。
ヴィクトルも同じく右半分は白いワイシャツ風、残す半分は黒いスーツのような生地の上着。
そこに赤や金の装飾が施されていて、ズボンは黒いシンプルなものにしていた。
私はヤコフから受け取った白い仮面をヴィクトルの顔に寄せた。
彼は目を閉じて大人しくしている。
その仮面は彼の輪郭に合うように出来ているため簡単に落ちることはない。

『いいよ、ヴィーチャ。』
「…」

静かに目を開いた彼の顔の半分は仮面で妖しく隠されている。
長い睫が彼の綺麗な瞳に陰を作っている様子までも妖しく美しいのだからズルい。
私はその瞳に引き寄せられるように顔を寄せる。
すると彼は膝を曲げて体勢を低くしてくれた。
彼の瞼にキスを贈ると私たちは手を取り合って大歓声の中、氷の中央に立った。
私が目を閉じて俯くと、ヴィクトルが私の肩を抱くようにして妖しく微笑む。
そうして始まったのは“オペラ座の怪人”
怪人の妖しげな歌声から始まった曲に合わせて私たちは互いを誘うように手を伸ばしつつ別々の方向へ滑り、最初のジャンプを華麗に魅せた。
そこからヴァイオリンやヴィオラが激しいメロディを紡ぎ始めると合流して、手を繋いだ状態で滑り出した。
彼の腕と脚に背中と頭を預けて身を低くして手を放して滑ってみたり、脚を頭の上へ掲げた状態で彼に抱かれてくるっと回ってみたりアイスダンスの技を取り入れているとこれには解説者も観客も驚いたようだった。

「アイスダンスの技を盛り込んできた!?」
「しかしこれはシングルの選手によるエキシビション!
オリジナリティを重視してアイスダンスでは禁止されているジャンプも魅せてくる!!」

そして私とヴィクトルがタイミングを合わせてジャンプをして着氷した途端、オペラ座の怪人の曲で最も有名な旋律が流れ始め歓声が上がる。
そこからの互いを求めるような旋律に合わせて私はヴィクトルから逃げるようにステップを魅せ、彼は寂しそうに優雅なステップで私の周りを滑る。
旋律が落ち着いてくると私はヴィクトルに手を取られリンクの端にいた。
彼はそこで私の頬を撫で、仮面を外す。
甘く微笑みながら仮面を投げ捨てると私たちは社交ダンスのように手を取り合い、彼の手が私の腰に回されワルツを踊るようにステップを踏み始めた。
身体を密着させたままステップを踏む様子は色っぽくとも優雅で観客の視線を奪った。
リンクの端まで優雅なステップを魅せるとそこからはジャンプとスピンを組み合わせて音楽の盛り上がりに合わせて演出で魅せていく。
私たちが脚を絡めるようにスピンをするとその美しさに歓声が上がる。
曲の終わりは互いの頬を撫でてから、私が彼の胸に頬を寄せるように抱きしめられた。

「「「キャー!!!」」」
「大歓声に包まれるヴィクトル選手と天羽選手!!
今シーズンも新たなチャレンジを魅せてくれました!!!」

私とヴィクトルは笑顔で手を振ってまたひとつシーズンに別れを告げたのだった。
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