姫と騎士(赤髪の白雪姫)(完)

□第2話
1ページ/3ページ

タンバルンを出てクラリネス王国にやってきた私と白雪は働き口を探すべく街に出ていた。

「庭師…ペンキ屋…馬車の修理工場…」
『うーん…どれも違うわね。』
「アカネはどんな仕事にするの?」
『そうだなぁ…どこかの護衛とか力仕事でも構わないんだけど…』
「えー…」
『…なんでそんな不満そうな顔するのよ。』
「また怪我するじゃない。」
『ハハハッ…』

彼女の不貞腐れた顔に私は苦笑する。

『私には白雪みたいに取柄がない。
だから身体を動かすくらいしかできないの。』
「取柄ならたくさんある!
料理も出来るし、強いし、身軽だし、綺麗だし、歌だって…」
『白雪。』
「あ…ごめん。」

歌についてはあまり知られたくない。
いい思い出があるとは笑顔で言えないから。

『とりあえずここが白雪の目的地だよね。』

そう言って私たちは薬屋に入った。

「薬剤師かい?」
「はい、薬剤師の仕事がしたいんです。」

私は少し離れた場所で壁に凭れて立つと白雪と店主の話に耳を傾けていた。

「うーん…生憎とうちは間に合ってるんだよ。
しかし君が、かい?」
「見た目で判断するもんじゃありませんよ。
お得意様に聞こえたらどうするんですか。」
「はいはい、すまんね。」

白雪は店に並ぶ薬草に目が向き興味津々。
私はというと白雪の隣にいる少年が気になっていた。
私は白雪に近付いて店主に問う。

『あの少年がお得意様ですか?』
「あぁ、まだ若いがれっきとした宮廷薬剤師だからね。」
「え?宮廷…?」
「そう。知ってると思うが宮廷付きの薬剤師は薬剤師の中でも特に一流の知識と腕を持った者しかなれない。
クラリネスは優秀であればどんな人材でも支援する懐の深い国なのさ。」
『すごい…』
「クラリネスは薬学への意識が高いんですね。」

すると店主はある紙を差し出した。

「宮廷薬剤師の募集要項だよ。
年に一回実施される試験に合格すると見習いとしてウィスタル城に務めることになるんだ。
あ、ありがとうございました!」

少年薬剤師が店を出ると店主や店員が頭を下げた。

「薬剤師なら一度受けてみるのもいいんじゃないかな?
ま、結構な難関だがね。」

その紙を受け取って私たちはウィスタル城へ向かった。
というのも、街から出るときはゼンに一言通さなけらばならないのだ。
白雪は薬草を実際に自分の目で見るため薬屋で聞いた森に自ら行こうと考えたらしい。
もちろん私も同行する。
城への道すがら美味しそうなパイを見つけ、白雪を先に行かせると私は買いに店に入った。
城の門前では2人の門番が立っていた。
一人は眠そうに欠伸をしていて、そこに白雪がやってくる。

「すいません、近衛兵団の木々さんかミツヒデさんに面会を。」
「んー…」
「あ!君もしかして!!」
「失礼致しました。ゼン殿下よりお客人だと伺っております。」

白雪に詰め寄った若い門番をもう一人が引き戻しながら言う。

「白雪!」
「「ゼ、ゼン殿下!!」」

ゼンは高い塀を飛び越えて軽やかに着地すると白雪に駆け寄って来る。

「え、えっと…何してるの、ゼン?」
「ちょっとした運動だ。
執務続きで身体が鈍ってもいかんからな。」
「つまり執務が続いているなか抜け出してきた?」
「うん、まぁな。暫く顔も見られてなかったし…会えたな、白雪。」
「うん。」

彼らが微笑むとその様子を見ていた門番の兵たちの方が頬を染めた。

「アカネはどうした?」
「そろそろ来ると思うんだけど。」
『白雪!ゼン!!』
「おっ、来たみたいだな。」
『久しぶり。』
「白雪を一人で行かせるなんて珍しいな。」
『美味しそうなパイを見つけたから買って来たの。』
「これは美味そうだ。」
「ゼン殿下〜!どこですか!!」
『ミツヒデさん?』

ミツヒデの声に私はゼンが執務から抜け出してきたのだとすぐに理解した。

「ここに来たってことは何か用だよな。」
「うん、街の外に出るときは声を掛けろって言ったでしょ?だから…」
「よし、行こう。すぐ行こう。」
「『え?』」
「おい、お前たち。ミツヒデには上手く言っておいてくれ。」
「は、はい!」

ゼンは兵たちにウインクをすると私たちを連れて駆け出したのだった。

「あ、失礼します。」
『失礼します。』

兵たちは律儀に頭を下げてくれたのだった。
それから馬車に乗り込んでパイを食べながら話す。

「コトの山?」
「うん。」
『海を渡った先の山ね。』
「あんなところに何しに行くんだ?」

白雪を挟むように私とゼンが座り、彼女の向かい側にいる少年は赤い髪を珍しそうに見つめていた。

「いろんな薬草が生えてるんだって。
自分で調達して薬学の勉強したくて街の薬屋さんに薬草を採取できる場所をいくつか教えてもらったんだ。」
「ほぉ…勉強って…お前元々薬剤師だろ。」
「うん…でも今の私の未熟な技術じゃ全然。
もっともっと学ばなきゃ。」
「じゃ、明日はこっちの森まで送って行ってやるよ。」
「いいの?」
「あぁ。」
「ありがとう!」
「アカネはどうするんだ?」
『私は薬学の知識があるわけでもないし…
木々みたいな兵士が向いてるかなって思ってるんだけど…』
「へぇ…確かにお前は体術や剣術に長けているようだしいいかもしれないな。」
「でも危ないことはさせたくないよ…」
『白雪は優しいからこんなこと言うのよ?』
「姉妹なんだ、心配するのが当たり前さ。」
「そうそう。」
『ふぅん…』

そして私と白雪はふと外に見える美しい街並みと自然に目を移し微笑んだ。

『…クラリネスはいいところだね。』
「え?」
「ここはとても魅力的だ。」
「真っ赤っかだ!お母さん、ねぇ!どうして真っ赤っかなの?あの姉ちゃんの髪真っ赤っかなの!!」
「しっ、ダメよ。静かにしなさい。まったく…」

白雪は微笑むとずいっと少年に身を寄せた。

「林檎みたいに美味しそうでしょ?」
「うん!食べたい!!ねぇ、お母さん!林檎!!食べたくなった、食べに行こうよ!!」
「「「「『ハハハハハハッ』」」」」

私とゼンは困っている様子の白雪を挟んで他の乗客と一緒に笑った。
ひとしきり笑うと私は少年の前にしゃがみ目線を同じにした。

「お姉ちゃん?」
「アカネ?」
『よーく見ててね?』

私は手を少年の前で振るとぎゅっと握ってもう一度開いた。
すると掌の腕には綺麗な林檎が乗っていた。

「林檎だ!!お姉ちゃんすごい!!」
『はい、どうぞ。』
「ありがとう!!」

少年の髪を撫でて私は再び席に座る。
そんな私の様子を白雪とゼンは目を丸くして見つめていた。

『ど、どうしたのよ…』
「アカネ、お前手品も出来たのか。」
「いつの間に…」
『知識を齧っておいて損はないかなって思って。』
「…ホントに喰えない奴だな。」
『褒め言葉として受け取っておきます。』

港町に着くとたくさんの人が行き来していた。

「賑わってる!!」
「いろんな国の人間が出入りしてるからな。
様々な文化が混じってる。」
「おや、ゼン殿下!ちょうどいい酒が入ってますよ。いかがです?」
「今日はいい。改めて来るよ。」
「へい。」
「知り合い?」
『酒屋…みたいだけど。』

樽を乗せた荷車を持って行った男性たちを見送って私たちは話す。

「前に知り合ってな。
それ以来兵たちへの土産を何度か頼んでる。」
「『へぇ…』」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ