黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第1夜
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悪夢の夜から2年程の月日が過ぎた雪の降る日、私はアレンに出逢った…

『マリアン、いい加減にしてよ!
どうして1人で買い物に行かなきゃいけないの!?』
「しょうがないだろ、アヤ。
ツケが溜まってるんだから。」
『それはちゃんと払わないからでしょ!!』

薄暗い一室から言い争いが聞こえてくる。
ほとんど無表情で2年間を過ごしてきた私と、師匠のクロス・マリアンだ。
2人の周りを飛ぶのは金色のティムキャンピーと、銀色のリリーというゴーレム。
リリーは私が師匠に教わりながら作ったもの。

「とりあえず行って来い!」

部屋から追い出された私は渋々少額のお金を片手に店へ向かう。

『マリアンの人でなし!!』

偽物の笑顔で店のおじさんを誘惑して、値段を半額以下に値下げしてもらう。
マリアンとの旅で身に付けた知恵だ。
他にも英語が話せるようになったり、古い書物から歴史を学んだり、元科学者の彼から科学的なことを教えてもらったり…
学ぶために時間は有り余るほどあった。

店を出ようとしたとき、茶髪の小さな男の子が視界に入った。
小さいと言っても、たぶん年上だろう。だが身長が低いのだ。
彼は店の隅にあった薬をこっそり服に隠した。
そして案の定、店のおじさんに見つかった。

「またお前か、このクソ餓鬼!!」

それでも男の子は薬を放そうとしない。
私は見かねておじさんにお金を突き付けた。

『おじさん、これで足りる?
その子の代わりに私が払うから許してあげて。』

どうして私がそんなことをしたのか今でも不思議だ。
私は男の子の手を掴んで、次こそ店を出た。

「…ありがとう。」
『いいよ、別に。それよりどうして盗もうとしたの?』
「父さんが病気なんだ。でもお金はないし…
ねぇ、お礼がしたいから明日そこのアパートに来てよ?」
『えっ?』
「じゃぁ、明日!!」

彼は明るく笑って走り去った。
それが“アレン・ウォーカー”との出逢いだった。


「遅かったな。」
『ちょっと人助けをしてたの。』
「人助け!?お前が?」
『その反応…ひどくない?』

私は店で起きたことを話した。
男の子の容姿を言った途端、マリアンは顔色を変えた。

「アヤ、今日のうちにこの町を出るぞ。」
『また急に…ってダメ!!
明日、その子のアパートに行くんだから。』
「ダメだ。ともかく荷造りしろ。」
『はい…』

彼と旅をしている限り、彼には逆らえれない。
他に生きていく場所もないから。

その日の夜、私たちは町を出た。
またマナ・ウォーカーは私とアレンが別れてすぐ、息を引き取ったらしい。


町を出て3日後…
マリアンは何を思ったか、また町へ戻った。
そして墓地へ行き、物陰からある墓と男の子を見るではないか。

『あっ!!』

あの時の少年だ。
私に見せた明るい笑顔は消え、涙を流し続けた瞳は赤くなっている。
彼に駆け寄ろうとする私をマリアンは止めた。

『マリアン…?』
「静かにしろ。見ていたら分かる。」

すると墓標の後ろに太った身体とシルクハットが特徴的な人物が現れた。

『千年伯爵…!!』
「マナ・ウォーカーを蘇らせてあげましょうカ?♡」

その言葉が頭の中で別の誰かに向けられているのが見えた。

「彼を蘇らせてあげましょうカ?」

―この光景、どこかで…―

少年は顔をあげた。
そして記憶の中のあの人と同じように名前を呼んだ。

『ダメ…』
「マナ!!」

不気味な光と共に、魂がダークマターというアクマの骨組みに入り込む。

「ア…レ…ン…よくもアクマにしたな…」

額にMANAと記されたアクマは少年に近づく。
アクマが呼ぶ言葉からして、少年の名は“アレン”だと、その時初めて知った。

ドンッ

鈍い音がしたと思うと、アレンの左目に赤い線が走っていた。アクマに斬られたのだ。

「アレン!!よくもアクマに!!!
呪うぞ…呪うぞ、アレン!!」

千年伯爵は楽しそうに笑う。

「ごめんね、アヤ…」
『お母さん?』

そのとき微かに天から聞こえてきた懐かしい声で、私はすべてを思い出した。
壊れた家も、血の海に倒れる父も、泣きながら死んだ母も、炎に包まれる町も…
そしてみんなを殺した張本人、千年伯爵のことも。

―許さない!―

『伯爵!!』
「おいっ、待て!アヤ!!」

マリアンの制止を振り切ってアレンの元へと走る。
アクマは現れた私の右目もアレンと同じように斬った。
それでも気にしない。痛みさえ感じない。
ただ伯爵を殺したい…“殺す”?
いつから私は“殺人”を生きる理由にするような、醜い人間になったのか…
すると突然、アレンの左腕が光った。
2年前の私の右腕と同じように。

『アレン君?』

その手はアクマ(マナ)を攻撃した。
おそらくそれはアレンの意思ではないだろう。

「ギャアアアアアアア」

アクマの絶叫。
アレンに気を取られている間に伯爵は消えていた。
左腕は勝手にアレンの小さな身体を振り回し、アクマを壊そうとする。

「何これ…!?勝手に…」

そして彼の目にボロボロになったマナが映る。

「マナ…!?やめろ、マナを…っ!!
逃げて…逃げて、父さん!!」
「アレン…お前を…愛してるぞ…壊してくれ」

それが最期の言葉だった。
斬られた右目に何かが映った。

―アクマの…魂?これが呪い…―

「貴女を巻き込んでしまったことを許してくれ。」

―マナさん?―

「わああああああああああああああ」

アクマは破壊された。
そしてアレンは力尽きたようにその場に座り込んだ。
まるで2年前の自分と同じで心が痛む。

「アクマに内蔵された魂に自由はない。
永遠に拘束され伯爵の兵器(オモチャ)になるのだ。
破壊するしか救う手は無い。」

―これって…私にも言った言葉…―

ふと顔をあげたマリアンが優しく微笑んだ。
私の心の声が聞こえたかのように。

「生まれながらに対アクマ武器を宿した人間か…数奇な運命だな。
お前もまた神に取り憑かれた使徒のようだ。」

そして彼が紡いだ言葉は私に向けたものと同じだった。

「エクソシストにならないか?」
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