黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第2夜
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「これがエクソシスト総本部“黒の教団”…」
『ティム、ホントに間違いないのよね?』

ちょっと殺気を込めて睨むと慌てたように首(ゴーレムに首なんてないが…)を縦に振る。

『じゃぁ…しょうがない。』
「登るしかないんだ…よね?」

再び2人で見上げる。
そこには頂上の見えない果てない絶壁。
これを登れというのか?
「早く!!」と急かす2つのゴーレムを見て、エクソシストの卵である私とアレンは同じことを思う。

―お前たちには羽があるだろ…―

『!!そうだ。』
「どうしたの、アヤ?
ここを楽に上がれるいい方法でも思いついた?」
『うん。』
「ふ〜ん。…ってホント!?」
『フェニックスの背中に乗って行けばいいじゃない。』
「そうか。でも大丈夫?体力の消耗が激しいでしょ?」
『登るのに比べれば消耗は少ないと思うけど?』

納得して返す言葉のないアレン・ウォーカー、15歳。
そして年上の彼を放っておいて、フェニックスを発動させる羽蝶アヤ、14歳。
2人の様子をコウモリのような黒いゴーレムが監視している。
ちなみにこの時、私は黒のロングスカート、そしてアレンと合わせて購入したブレザーという英国女子の軽装。
アレンもスカートがズボンになっただけで私とそれほど違いはない。
まぁ、イギリス人の彼の方が似合ってはいるけど。
この格好では登れない。というより、登りたくない。
そして思いついたのがフェニックス。

―意外に便利ね。―

『行くよ、アレン君。』
「…落ちないよね?」
『信じてよ。』

彼に手を貸してフェニックスの背中に乗せる。
私は彼の前に座って、初めての飛行に胸を躍らせる。

『あっ、でも初めてだから暴れたら落ちちゃうよ?』
「えっ!?」

その時には既に地面からかなり離れていた…
アレンの悲鳴が響き渡る中、私たちは黒の教団へと向かった。
息を整えるアレンの手を引きながら入口へと足を進める。

「話には聞いてたけどなんてゆーか雰囲気あるな…」
『そうね…どうしてこんな所に建てたのか知らないけど。』
「やっぱりキツい?」
『平気!』

そんなことを話している間に入口へ着いた。
そこには妖しい空気が漂っている。

「すみませーん。クロス・マリアン神父の紹介で来たアレン・ウォーカーと羽蝶アヤです。
教団の幹部の方に謁見したいのですが。」

アレンに挨拶を任せ、私は周囲を見回す。
たくさんのゴーレムが飛びまわっている。

―この作りは…ティムやリリーと大きく異なるわね。監視用かしら?
興味深いわ。あとで誰かに訊いてみよう。―

長年師匠と共に旅をしてきたため、科学に詳しくなった私は呑気にゴーレムの分析をしていた。

[後ろの門番の身体検査、受けて。]

ゴーレムから声がする。
この人が“コムイ”さんかな?

言われた通りに振り返ると、不気味な顔がぐおっ、と近付いてきた。
ついアレンの背中に隠れてしまう。

「レントゲン検査!アクマか人間か判別!!」

門番からの光が2人に降り注ぐ。
検査をしていくうちに門番の顔に汗が流れ出す。
そして私たちの額にあるペンタクルを見つけ出した。

「こいつらアウトォォオオ!!!」

門番の声が教団中に響く。

「『へっ?』」
「こいつらバグだ!額のペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!
ペンタクルはアクマの印!!
こいつら、奴等の…千年伯爵の仲間(カモ)だー!!!」
「んなっ?」
「「「「なにぃ――――っ!?」」」」
『ちょっと!伯爵みたいな奴と一緒にしないでよ!!ねぇ、聞いてるの!?』
「ちょっ、アヤ。」

伯爵と同類だと言われ、怒らないわけがない。

『私はアクマに両親を殺されたの!!
そんな私が伯爵の仲間なわけないでしょ!!
いいかげんにしなさいよ!』

暴れる私を止めようとアレンが後ろから羽交締めにする。
そこに上空から殺気が突き刺さった。
見上げると門の上に髪の長い青年が立っていた…

「2匹だけで来るとは、いー度胸じゃねぇか…」

そう呟いたと思うと、彼は手にした刀を振りかざし突然襲いかかってきた。
アクマだと思われているのだから当然だが…

―あれは…対アクマ武器!!―

『アレン君、下がって!!』

アレンを後ろへ突き飛ばし、私は日本刀で応戦する。

―この人強い…―

次の瞬間、私は20メートルほど後方へ飛ばされた。

『痛っ!』
「アヤ!!よくも…」
『ダメっ、アレン君!!』

攻撃するが、やはり結果は私と同じ。
青年の攻撃を受け止めたアレンの左腕にひびが入る。
私は片足を引きずりながら、アレンのもとへ走る。

『刀型の対アクマ武器よ。彼もエクソシストのようね。
対アクマ武器同士だとアクマの砲弾に耐えられる腕も無意味なの。師匠が教えてくれた。』
「だからさっき…」

私はこくりと頷く。
その時攻撃を防がれた青年はアレンの左腕、そして私が持つ刀に目を移した。

「お前…その腕はなんだ?」
「…対アクマ武器ですよ。僕らはエクソシストです。」

同じ人間、それもエクソシストなら分かってもらえるはず。
そして入城も許されるだろう…と思い、アレンは素直に答えた。
しかし、この青年もバカだったようだ。

「門番!!」
「でもよ、中身がわからねェんじゃしょうがねェじゃん。
アクマだったらどーすんの!?」

青年の殺気に怯える門番にアレンも負けじと抗議する。
それを気にせず、青年は私たちに刀を向けた。

「まぁ、いい。中身を見ればわかることだ。」
『いや、そうしたら死んじゃうでしょ…』
「アヤ!冷静にツッコんでる場合じゃないよ!!」
『落ち着いて、アレン君。』

青年が刀を構えて走ってくる。
それをSAKURAで受け止めながら、黒いゴーレムに向かって話しかける。

『そこにコムイさんはいらっしゃいますか?
クロス・マリアン師匠から紹介状が届いているはずなんですが。』

すると攻撃がやんだ。
それと同時に、ひとつにまとめていた髪がほどけた。
彼が私の髪紐を斬ったようだ。

「アヤ!!」
『何?』
「何って危ないでしょ!」
『師匠の攻撃よりマシよ。』

その会話や私に攻撃を簡単に避けられたことに腹を立てた青年は、私に刀を向けたまま尋ねた。

「おいっ。」
『何?私は羽蝶アヤ。“おいっ”って呼ばないで。』
「お前日本人だろ?」
『そうですけど何か?』

私は彼の睨みつけるような視線を真っ直ぐ見つめ返す。
それが気に食わなかったのか、彼は私に近づくとむりやり顎を持ちあげる。
私の顔を近くで見るために。
それを見ていたアレンが慌てている。

「放してくださいよ!!」

アレンが私と青年の間に入る。そして私を背後に隠す。

『貴方の名は?まだ聞いてませんよ。』

わざと日本語で訊いてみた。
たぶん、アレンには理解できなかっただろう。

「神田だ。」
『それは苗字だけでしょ。ファーストネームは?』
「…ユウ。」
『ふ〜ん、神田ユウ。いい名前ね。』

私はそれまでの冷たい表情を捨て微笑む。
日本人に会ったのに、嬉しくないはずがない。
師匠に助けられ目を覚ました時、私は既に海を渡っていた。
だから日本人と会うのは5年ぶり。
もちろん日本語を話すのも。

「あの…」
『どうしたの、アレン君。』
「僕のこと忘れてない?」

神田はアレンのことが気に食わないらしい。
彼は刀の先を次はアレンに向けた。

「わっ!!」

―気が短いな…教団内に友達いるのかな?
こういう人に限って本当は優しかったりして…―

[待って、待って、神田くん]
「コムイか。」
[ごめんねー早トチリ!
その子たちクロス元帥の弟子だった。
ティムキャンピーが付いているのが何よりの証拠だよ。
彼らはボクらの仲間だ。]

神田とアレンが睨みあう中、私は神田の後ろに立った少女に目を移した。
そして目を丸くする。
神田はそんな私を不思議に思い、振り向こうとした。
彼女はバインダーを振り上げた。

―ま、まさか…!―

ぱこん

可愛らしく、憎らしい攻撃が彼の頭に命中した。

「もーやめなさいって言ってるでしょ!
早く入らないと門閉めちゃうわよ。」

ツインテールの東洋人の少女が立っていた。
あまりにも急に捲し立てられたので、その場にいた誰もが反論できず、素直に従い門をくぐるしかなかった。

ガシャン

開くのに随分と勿体付けたその鉄の門は、閉まる時あっという間だった。
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