黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第3夜
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調査の発端は地元の農民が語る奇怪伝説だった

《古代都市 マテール》
今は無人と化したこの町に亡霊が棲んでいる―
亡霊はかつてのマテールの住人
町を捨て移住していった仲間達を怨み、その顔は恐ろしく醜やか…
孤独を癒すため、町に近づいた子供を引きずり込むと云う


イギリスの街並を3つの黒い影と金銀の光が駆ける。
それは風のように一瞬の出来事。
私とアレンは資料を片手に、屋根から次の屋根へ跳ぶ。

「あの、ちょっとひとつわからないことがあるんですけど…」

アレンの疑問に答える余裕なんてない神田は叫ぶ。

「それより今は汽車だ!!」
『コムイさん…もうちょっと時間に余裕のある汽車はなかったの!!』
「いつものことだ!!」
『そうなの!?』

会話も叫んだ状態でないと、相手に届かない。

「お急ぎください。汽車がまいりました。」
「でええっ!これに乗るんですか!」

その声を合図に私と神田は飛んだ。
アレンは後ろから来る。

―乗らなきゃいけないなら飛ぶしかない!!―

私の心境はこんな感じ…
しかし男性に比べて小柄な私にとってそれは簡単なことではない。
風圧によって飛ばされそうになる。
すると神田が危機一髪のところで腕を掴んだ。

「おいっ、しっかりしろ。」
『ごめん。悪いんだけど、掴んでてもらえる?』
「…めんどくせぇ。」

そう言いながらも彼は私を引っ張り自分の背後に私を置いた。
それだけで風は当たらない。

「これでいいだろ?」
『…うん。』

その時、後ろにアレンが落ちて…降りてきた。

「飛び乗り乗車…」
「いつものことでございます。」

ファインダーの冷静な返答は風に呑まれた。
神田の考慮で私が最初に汽車に入った。
屋根から中に入ると、私に気付いた客室乗務員がうろたえていた。まぁ、当然だけど…

「困ります、お客様!
こちらは上級車両でございまして…てゆうかそんな所から…」
「アヤ、どけ!」

声に反応して横に一歩動くと神田が下りてきた。
慣れたような無駄のない仕草。
次に入ってきたファインダーの人は客室乗務員に言った。

「黒の教団です。一室用意してください。」

すると彼は私の胸にあるローズクロスを見て、顔色を変えた。

「か、かしこまりました!」
「何です今の?」

降りてきたアレンの問いに答える。

『私たちの胸にあるローズクロスはヴァチカンの名において、あらゆる場所への入場が認められているの。』
「へぇ…」
「ところで、私は今回マテールまでお供するファインダーのトマ。
ヨロシクお願いいたします。」

まだ名前さえ知らなかったトマと挨拶を交わすと、私たちは用意された部屋で任務についての報告書に目を通した。
その部屋は今まで見たこともないほど豪華だった。

「で、さっきの質問なんですけど。」

その一言で私たちの向かいに座る神田は眉間に皺を数本増やす。

「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」

私はペラペラと読んでいるのか怪しい速度でページを捲る手を止める。

「アヤ、お前が知ってるだろ?説明してやれよ。」
『私より神田の方が詳しいはずよ。先輩でしょ?』

彼は舌打ちすると説明を始めた。

「…チッ。イノセンスっていうのはだな…
大洪水から現代までの間に様々な状態に変化しているケースが多いんだ。
その結晶の不思議な力が導くのか、人間に発見され色んな姿形になって存在していることがある。
そしてそれは必ず奇怪現象を起こすんだよ、なぜだかな。」
『“奇怪のある場所にイノセンスがある”
だから教団はそういう場所を虱潰しに調べて、可能性が高いと判断したら私たちエクソシストを回すの。』

私はそれだけ言うと窓の外へと目を移した。

―こんなに穏やかな世界に魔の手が迫っているなんて思わないわよね…―

そんな私の横顔を神田は見つめていた。

―こいつの瞳は意志の強さがはっきり出ている。
初めは気に食わなかったが、今思えば…嫌いじゃない…―

神田は柔らかな表情を一瞬見せ、すぐに資料へと目を戻した。
その表情の変化をアレンが見落とすはずがない。

―神田、アヤのことが好きなんだ…―

アレンは胸に広がる暗い思いを、首を振って追い払って資料に目を落とす。
するとそこの一点に釘付けになった。

「!」
「これは…」

神田も同じ箇所を読んでいたらしい。

「そうでございます。」

アレンと神田は声の主であるトマの方を向く。
彼は部屋の外で見張りをしている。

「トマも今回の調査の一員でしたので、この目で見ております。
マテールの亡霊の正体は…」
『捨てられた人形…』

アレンがこちらを振り返った時、私はまだ窓の外に目を向けたままだった。



岩と乾燥の中で劣悪な生活をしていたマテールは《神に見放された地》と呼ばれていた
絶望に生きる民達は、それを忘れる為人形を造ったのである
踊りを舞い、歌を奏でる快楽人形を…
だが結局、人々は人形に飽き外の世界に移住
置いていかれた人形はそれでもなお動き続けた…
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