黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第6夜
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「大変なことになったね。
ラビ、誰も入ってこないように見張っててよ。」
「ヘーイ」

明るい声にアレンはそっと目を開いた。
目に映るのは白い天井と見なれた人物。
しかし少し違和感がある。

―左目が見えないからか…―

「あれ?や、目が覚めちゃったかい?」
「!!コムイさん!?え?ここどこ!?アヤは!?」

教団から出るはずのないコムイが目の前にいる。
何か起きたのでは、とアレンは混乱する。

「ここ?病院だよ。
街の外で待機していたファインダーから〈街が正常化した〉との連絡を受けたんだ。
任務遂行、御苦労だったね。
…って、起きた第一声がアヤってのは、聞いてるこっちが恥ずかしいなぁ〜。」
「ご、ごめんなさい///」

そう言いながらも目ではずっとアヤを探している。
すると隣のベッドからのぞく黒い髪が見えた。

「…アヤ?」
「実はね、これから君たちには本部に戻らず、このまま長期任務についてもらわなきゃならなくなったんだよ。
詳しい話はリナリーとアヤくんが目覚めた時、一緒にする。」
「!リナリーもまだ目覚めて…!?」

アレンは私のベッドに近づきながら声を上げる。

「神経へのダメージだからね…でも」
「大丈夫っしょー今うちのジジイが診てっから。
すぐにもとに戻るよ。
あっ、アヤの治療の方が早かったから、もうすぐ目ェ覚ますんじゃないか?」
「!?」

ドア付近に視線から声がした。
その見なれぬ人物は赤い髪、黒い眼帯、そしてバンダナをはめた青年…

「ラビっす、ハジメマシテ」

ニコっと人懐っこい顔で挨拶するラビ。

「…はじめまして。」
「そうそうアレンくん。ミスミランダから伝言を預かったよ。」


アレンくん
リナリーちゃん
アヤちゃん
目覚めるまでいられなくてごめんなさい

私が時計のイノセンスを発動したあの日から
街はなぜか奇怪が解けました
街の人達は34回も10月9日が
来たことなど全く知りもせず
まあ私が原因だったのだから
その方がありがたいのですが

みんなはイノセンスが奇怪を起こしたのは
私の心に反応したからだと言っていたけれど
今こうして思うと
あの奇怪はイノセンスが私を試すために起こした気がするの
おかしいかしら、こんな考え
だってイノセンスは私がアレンくんを庇うあの時まで
ずっと黙ってたんだもの

でもおかげで、やっと自分の居場所を見つけられた気がする

また会いましょう
今度はエクソシストとしてお役に立ちます


手紙を読みながらアレンは微笑んだ。

「ミランダさん…」

アレンはそっと私の黒髪を撫でる。
それを見てコムイはラビを連れて部屋を出た。

「アレンくん、アヤをよろしく頼むよ。」
「はい…」

私の髪を手で梳きながら答える。
そして私の右目や他の傷を見て、哀しそうな顔をする。

「ごめんね、アヤ…
僕の所為で右目は呪われて今回は潰された…
君を独りにしないって言ったのに…」

包帯で巻かれていない右手で私の手を包む。
その体温は私を安心させた。

「守れなかった…ごめん…
お願い…目を覚まして、アヤ?」
『…?ア…レン…くん…?』

彼が痛いほど強く私の手を握っているため、目が覚めかけていた。
そこにアレンの声が聞こえ暗い世界に光が射したのだ。

「…アヤ…」
『泣かないで、アレンくん。』

私はそっと彼の涙をぬぐう。

「ごめん、守れなくて。」
『どうして謝るの?
傷つくことは戦争の中でしょうがないのよ。悲しいけどね。
でも誰の所為でもないの。』

我慢していたものが切れたように、アレンは私を胸に抱いて泣いた。

―ノアが現れて混乱してるのね、アレンくん…敵はアクマだけじゃない。
人間も疑い続けないとエクソシストとして生きていけないんだよ…―

私は静かに決意を抱きながら彼の背中に手を回した。

「ちょっとお邪魔するさぁ〜」
『“さぁ”?』
「あっ、目ぇ覚ましたんさね。俺、ラビ。よろしく。」
『…よろしく。』

彼に続いてコムイと小さな老人が病室に入ってくる。

『アレンくん、みんなが来たよ。』

名残惜しそうに私から離れるとアレンはコムイ達に向かい合う。
そして私はコムイからアレンが聞いたものと同じ説明を受けた。

『リナリーはまだ…』
「アヤくんは回復が早いね。
神経のマヒも、もう治ってるみたいだ。」
「調子はいかがかな、アヤ。」
『治療してくださったそうですね。ありがとうございます。もう大丈夫です。』

小さな老人はアレンと私の呪われた目を覆う包帯を取り始めた。
私たちは大人しく待つ。

「これは奇っ怪な。潰された眼が再生し始めている。」

彼は持っていた針を片付け、私たちを交互に見る。

「まだ何も見えないだろうが、しばらくの事だろう。
この速さならば3・4日も経てば元に戻る。
私の針はいらない。〈呪い〉…だそうだな。」
「昔アクマにした父から受けた傷です。
アヤの右目も、その時に巻き込まれて…」
『しかし後悔はしていません。』
「アレン・ウォーカー、〈時の破壊者〉と予言を受けた子供だね。
そして羽蝶アヤ、世界を導くもう1人の〈時の破壊者〉。
我らはブックマンと呼ばれる相の者。
ワケあってエクソシストとなっている。
あちらの小僧の名はラビ。
私の方に名は無い。ブックマンと呼んでくれ。」

彼は私たちと手を取り交わした。

「本当に鏡のようだ…」

彼が立ち去る時、小さな呟きが聞こえた。


“鏡”
私たちはよくそう例えられる。
性別も髪の色もイノセンスも呪われた眼も、すべて反対。
でもいつも一緒にいて同じ行動をする。
それはまるで“鏡”のよう。


「リナリーのお見舞いに行こうか。」
『うん。』

私たちは病室を出た。

「コムイさん、入りますよ。」
『お邪魔しま〜す…』

そこはコムイが自参した書類によって埋め尽くされたリナリーがいた。

「『…』」

その様子に言葉も出ない。
コムイは疲れたようで“ピーコー”“おすぎぃー”とか言いながら寝ている。

『起こしたほうがいいんじゃない?』
「…コムイさん!」

…反応なし

アレンは無言で彼を揺する。
こうなると、もうアレしかない。
私たちは互いを見ると、それを実行に移した。

『リナリーが結婚するって。』

ガチャ

ドリルを構えて起きるコムイ。

「おはようございます…」

呆れたようなアレンの声がした。

「アレンくんとアヤくんか…
もう大丈夫なのかい?」
『はい、ご心配をおかけしました。』
「それで僕に何か用かな?」
「リナリーのお見舞いに…
まだ目が覚めないみたいですね。」
「長い夢でも見てるんだろう。
ブックマンの治療を受けたから心配はいらないよ。
アヤくんみたいにすぐ治るさ。」
「ブックマンか…不思議な医療道具、持ってましたよ。」
『あれは“鍼術”って言うの。
中国太古から伝わる針治療よ。』
「あのおじーちゃんはそれのスゴ腕の使い手♪
それにしてもアヤくん、よく知ってるね。」
『師匠と中国を旅していた時に教えてもらったわ。
それよりコムイさん、忙しいのにどうしてわざわざ外に出てきたの?』
「僕らやリナリーのため…じゃないですよね。ノアの一族って何ですか?」

私の頭にロードの冷たい笑みが浮かんだ。
怖くなってアレンの手を握る。
私たちはいつも一緒…
その体温は私にそのように語りかける。
彼の笑顔のように暖かい。

「それをうちらに聞きに来たんさ。
正確にはブックマンのジジイにだけど。」
「「『!!』」」

ラビが近くの段ボールから顔を出していた。

―アレ!?いつ入って来たの、この人…―

彼はニコっと笑うと話を再開する。

「ノアは歴史の〈裏〉にしか語られない一族の名だ。
歴史の分岐点に度々出現してんだが、どの文献や書物にも記されてねェ。
そんなアンノウンが伯爵側に現れた。
だからわざわざ来たんしょ、コムイは。
この世で唯一、裏歴史を記録してるブックマンのトゴえ…」

しゃっべているところへ、ブックマンの蹴りがきまった。
近くの資料を巻き込みながら飛んでいくラビ。
いつものことなのだろうか。
ラビとブックマンは普通に言い争っている。
それが済むとブックマンは鋭い視線を私たちに向けた。

「アレン・ウォーカー、アヤ。」
「は、はいっ!!」
『…』

びくっとしながら立ち上がるアレン。
そしてブックマンの視線をまっすぐ見つめ返す私。

「今は休まれよ。リナ嬢が目覚めればまた動かねばならんのだ。急くでない。」

その言葉はアレンの心をすべて見通しているようだった。

『アレンくん…』

私には何も言える言葉はない。
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