My Shining Prince(うたプリTOKIYA)(完)
□第6話
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合宿の間に私は1曲書き上げた。
トキヤの歌を聞き、完成した曲は強く激しく…優しい内容の曲。
あっという間に歌詞も出来上がり、あとはゆっくり練習し編曲していくだけ。
―もう1曲、どうしようかな…
なんか可愛らしいのにしようかしら。―
そうして合宿は終わり、私とトキヤは笑顔で学園へと帰って行った。
帰ってすぐの授業でトキヤは指名され歌を歌うことになった。
Aクラスの一番後ろでゆっくり立ち上がる。そして口を開いた。
―彩…初めてみます、もう一度…
貴女と共に夢を叶えるために…―
《BELIEVE☆MY VOICE》
―“君とならば世界だって変えられるはず…”
そうですよね、彩…―
彼は歌いながら手を伸ばす。
その先には私が見えているかのようだった。
―私たちなら変えられるわ、世界も運命でさえ…―
Sクラスで授業を受けながら、私は彼の歌声を聞く。
開けていた窓から彼の声が聞こえてきたのだ。
隣に座るレンも微笑んでいる。
トキヤの声の変化に気付いたのだろう。
教壇に立つ龍也も例外ではなく、一瞬小さく笑ったのが見えた。
途中まで聞くとレンが私に小声で言う。
「この歌、まるでハニーのために歌ってるみたいだね。」
『っ…それってどういう…?』
「好きなんだろ、イッチーのこと。」
『もしそうだとしたら…?』
「付き合ってるのかな?」
彼を見るとウインクされた。
『…ホント変なことに鋭いわね。』
「おっと、図星かい。」
『言わないでね。』
「言わないさ。ハニーが退学にでもされたら、俺のオアシスがなくなってしまうからね。」
『どうも。』
2人で微笑むと龍也に指名された。
「そこの2人、何を笑っている。」
『あ、すみません。
トキヤの歌を聞いてたらつい嬉しくなっちゃって。』
「俺もハニーと同じ理由だよ、龍也さん。」
「…まぁ、いい。今日はそういうことにしといてやる。」
―一ノ瀬の奴…合宿中に何かあったか?―
その間も歌は続く。
やはり私たちの耳は授業ではなく彼の歌声に惹かれていった。
「イッチー、真っ直ぐだね…」
『歌なら正直なのに…』
私たちが付き合ってるとバレてしまったがレンは気にしないらしい。
歌が終わり、授業も終了すると彼は普通に私の肩を抱いた。
「付き合っていようともハニーのことは好きだからね。
こうやってこれからもよろしく頼むよ。」
『はぁ…いいけどね、私は。
浮気だと思われない程度にしてちょうだい、レン。』
「努力するよ。」
「何の話だ?」
『なんでもないよ、翔ちゃん。』
「このお話は、おチビちゃんにはまだ早いかな。」
「餓鬼扱いすんな!!」
歌い終わったトキヤは林檎に肩に手を乗せられた。
「良かったわよ。」
クラスのみんなも彼の変貌ぶりに驚いているようだった。
音也や春歌、友千香、那月、真斗はどこか嬉しそう。
そんな彼らの様子にトキヤの顔からも笑みが零れる。
―届きましたか、彩…私の想いが…―
その歌を聞いていたらしい早乙女はトキヤを学園長室に呼ぶ。
何故だか私も呼ばれて、その場へ向かっていた。
『いい歌だったわね。』
「彩…」
『受け取ったわよ、その想い。
私たちなら世界を変えられる、でしょ?』
「はい。」
『それに言えることはただ一つ…何だっけ?』
私は意地悪く笑って彼を見上げる。
私の意図を理解し彼は少しだけ顔を赤くした。
「…“離さない絶対”。」
私は微笑むと彼の腕にしがみついた。
『約束だからね。』
「もちろんです。」
部屋に入ると早乙女と林檎がいた。
「なかなかデリシャスじゃな〜い♪」
早乙女は机に飛び乗り、トキヤに顔を近づける。
「この調子でGO!GO!!GO!!!ね〜」
「はい。」
「これなら〜SクラスへCome backもありえるかも〜ん?」
―やった…!!―
私は小さくガッツポーズをする。
それを見た林檎がクスッと笑った。
「音楽の神ミューズが愛した島で救いの女神にNice to meet youしましたね〜?」
「『!!』」
私たちはそれがすぐに春歌のことだと気付く。
「そっして〜ミス神楽崎との絆も深まったようで〜す♪」
『…お蔭さまで。』
「卒業オーディションの歌はできてますか〜?」
『はい、残り1曲です。もうイメージは出来上がっています。』
「楽しみにしてま〜す♪」
そして私たちは部屋を出た。
扉が閉まると早乙女は机から飛び降りて椅子に座る。
「聞きましたよ〜噂の女神の曲。」
「気に入ってもらえた?」
「Ye〜s!!人を動かすパワーを持つ不思議なマドモアゼ〜ル…
それも北風と太陽の太陽のごとくあったか〜く優しい。」
「そして自分ではそのことをまだ知らない。」
「ミス神楽崎の曲も素晴らしいで〜す!
激しく…優しく…心のまま奏でる曲ばか〜り!!」
「まるで彼女自身を表しているようだわ。」
「音符のひとつひとつに想いが乗せられているようで〜す♪
例の女神とはどこか違う…それが2人の魅力なのなの〜」
彼は楽しそうに笑った。
その笑顔の意味は彼以外誰も知らない。
私たちは別れ、それぞれのクラスに帰って行った。
その頃、春歌は迷っていた。
学校中ペアの話ばかり。
彼女は音也にも…そして私とトキヤが歌っていたあの朝にはレンにもペアの相手を申し込まれていたのだ。
そこに私と別れたトキヤがやってくる。
彼らは廊下で立ち止まった。
「い、一ノ瀬さん…」
「今、学園長に会ってきました。
…ありがとうございました。貴女のお蔭です。」
「そんな…私は…
でもよかった。本当に良かったです。」
彼女の言葉に彼は微笑む。
最近、彼の表情が豊かになったように思う。
「では失礼します。」
彼が去った瞬間に彼女は気付く。
もしトキヤとペアになれば、それはHAYATOに歌ってもらうことになるのだと。
その後、彼女は多くの人にペアを申し込まれていく。
最初に彼女に告げた音也。
「俺、七海と一番近い距離にいると思ってる。
七海となら卒業オーディション、きっと最高の歌が歌えるよ!」
次は薔薇の花束を持ったレンだった。
この日は彼女への猛烈なアプローチが次から次へと…
「やぁ、マイレディ。」
「神宮寺さん!」
「愛しのマイレディはまだ迷える小羊ちゃんのかな?
迷うことないさ。俺なら間違いなく君を幸せにできる。
とびきり情熱的な歌でね…」
そう言いながらレンは春歌を壁へと追い込んでいく。
「後悔はさせない…」
そして彼女の背中が壁に当たると、彼女の顔の隣に手をつき逃げられないようにした。
「君が必要なんだ。
あのとき俺が破り捨てた歌詞を君が必死に探してくれた…」
―彩も探してくれたけど、ハニーにはもうイッチーがいるからね…―
「俺が心の中に閉じ込めていた音楽への想いを君が呼び覚ましてくれたんだ。ありがとう。
その先にあるものを君と一緒に探しに行きたい。だから…」
彼はキスしようと顔を寄せるが、ぎゅっと目を閉じる彼女を見てフッと笑った。
離れるとおどけたように言う。
「いい返事を待ってるよ、小羊ちゃん。」
そして軽く片手を上げると彼は去って行った。
するとその先に真斗がいた。
「ん?…覗き見か。いい趣味だな。」
「彼女は他の女子とは違う。これ以上彼女に近付くな。」
「イヤだ、と言ったら?」
「俺が許さない。」
2人は真剣な目で睨み合う。
「フッ…ハハハハハッ」
「何がおかしい。」
「俺への対抗心か?昔からお前…」
「違う!俺には彼女が必要だ。」
レンは振り返って真斗を正面から見る。
これほど心のままに話す真斗をレンは初めて見たのだった。
「彼女以外には考えられない。」
「生憎だが、俺にこそ彼女が必要だ。」
その言葉に驚いたのは真斗だ。
音楽に正面からぶつかり、思いをあからさまにしたレン。
彼女との出会いがここまで彼を変えたのか、と真斗はただ思うばかり。
「俺にこそ…」
「お前には譲らない。」
互いに背を向け歩き出した2人からは真剣な思いだけが溢れていた。
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