My Shining Prince(うたプリTOKIYA)(完)

□第8話
1ページ/7ページ

私はまだ誰もいない学園内のライブ会場に1人で立っていた。

『ここからすべてが始まった…』

ステージの中央で目を閉じると、この学園で過ごした時間が色鮮やかに蘇ってくる。

『短い時間の中で、いろんなことがあったわね。
本当に驚くほどいろんなことが…』

そして口角を上げると目をゆっくり開く。
今まで私はステージに立つような立場ではなかった。
陰ながら曲を提供する…そんな存在だった。

『本当に私がステージに立つとは…』

未だに信じられない。

―でも精一杯やるだけよ…―

心を落ち着かせると私は清々しい笑顔でライブの準備を始めるのだった。


ライブの30分前、入学式が行われたこの会場に生徒が全員集まった。
ST☆RISHも集まっているようだ。
少し離れた席に5人が一列に並んでいる。…1人足りない。

「あれ、トキヤがいないよ?」
「またアイツかよ…」

レンと真斗はその理由に感付いて小さく微笑む。
那月も2人の微笑みから理由を理解したらしい。

「彩ちゃんの曲を一緒に歌うのって誰でしょうね。」
「ハニーも知らないらしいよ。」
「2曲は彩自身が歌い、1曲は彼女も知らない相手が歌うのか…楽しみだな。」

トキヤがいないことに慌てもせず、のんびり言う3人に翔が尋ねる。

「どうして3人だけ納得してんだよ!?」
「だからトキヤはどこ!?ライブ始まっちゃうよ!?」

音也と翔の言葉に残りの3人は呆れたように笑うだけ。

その頃、私は黒い衣装の上に白い衣装を着て、
メイクはステージでも映えるよう少し濃くしていた。
舞台裏でスタンバイしていると春歌がやってくる。

「彩さん!」
『ハルちゃん!!』
「頑張ってくださいね。ST☆RISHのみなさんと一緒に応援してますから。」
『ありがとう。』

彼女は去るとメンバーのもとへ向かう。
そこにトキヤがいないことに気付いたが、その理由までは気付かなかった。
彼女が去って暫くすると林檎の声が響いた。
林檎が私のライブの司会を務めてくれるらしい。
龍也も林檎の隣に並んで、観客席の近くからステージを見上げることになる。
観客である生徒と教師たちは色とりどりの光で照らされ、ステージ上のモニターも光りだす。
生徒たちが歓声をあげた。

「おはよっぷ〜♪
これから彩ちゃんの卒業ライブが始まるわよ〜ん?」
「Yeah!!」
「彩〜〜〜!!」
「ミス神楽崎のライブ、楽しみますよ〜」
「学園長!?」
「どんなライブを見せてくれるんでしょうね〜?」

明るい声が舞台裏まで聞こえてくる。
その声に肩の力が抜け自然に笑みが零れた。

『ありがとう、みんな…』
「それじゃあ、みんな盛り上がっていきましょう☆」

林檎の声が響くと同時に、Happy Endingsのイントロが流れ始める。
私の目の前のモニターが開き、強い光が射しこんだ。
ステージ上のモニターには可愛らしい映像が映される。
私は明るい光の中、歓声に迎えられてステージの中央へと歩いて行く。
そして笑顔でスカートを揺らしながら歌うと、ST☆RISHと彼らと並んで座る春歌が観客の中に見えた。
彼らのオーラはやはりすごい。
歌って踊っている私からでもすぐに見つかるのだから。
曲の最後彼らだけに投げキッスを贈ると、彼らはきょとんとした。
唯一レンだけは微笑んでウインクを返してくれた。
歌が終わり歓声がおさまってくると私は観客を見回す。

『みんな、私のために集まってくれてありがとう!!
デビュー前にこのステージで歌えること、とても嬉しく思うわ!!
今日は盛り上がっていきましょう!!!!!』

その瞬間ステージを包むように白い霧が放たれた。
私の姿が観客の目から消える。
ざわつく会場を鎮めるため私は言葉を紡ぐ。
そんな私を早乙女、林檎、龍也は笑顔で見守り、
ST☆RISHはドキドキしながら見つめ、舞台袖にいる“彼”は心配そうに見た。

『ずっと一緒にいたいみんなへ…』
「ハニー…」
「彩…」
「彩さん、それって…」
「俺たちのことか…?」

私の声が響き、会場が静かになっていく。
私は霧の中で衣装を一瞬にして着替え、頭にミニハットを乗せた。
衣装の変化に伴うように口調も変化した。

『そして大切なあの人に贈る…“オルフェ”!!』

それを聞いたトキヤが目を見開く。

「彩…」

彼の見る先には霧の晴れたステージで、マイクスタンドに片手を乗せて黒い衣装を着て歌い始めた私がいた。
Happy Endingsのときより鋭い視線を観客に向けて、強くて真っ直ぐな歌声を響かせていく。
みんな目を丸くする。
さっきまでの清楚な女性と、今目の前で激しく歌っている人物が本当に同一人物だとは信じられない様子だった。
なんと生徒の中には涙を流す者もいる。

『私の想い、みんなに届いたか…?』

その甘い囁きに観客は歓声で応える。

『…Thank you.』

するとステージを照らすライトがすべて消え、思っていた以上に暗くなった。
私たち全員の目には闇しか映らない。
そんななか、1人の人物が私の隣にやってきてマイクの前に立つ。
私はそれを感じながらざわつく観客に言った。

『心配しなくていいわ。
それより最後の曲をみんなに届けよう。』

会場が少しずつ静かになっていく。

『この曲は先生方が決めた人物と共に歌うわ。
私とおそらく今隣に立っている人物とは一度も打ち合わせをしてないし、
私に至ってはこの人が誰なのか知らないの。』
「え〜〜〜!?」

会場を驚きの声が包む。

『この曲は2人で歌うように作曲してあるけど、相棒であるアイドルコースの彼?彼女?は、昨日初めて楽譜を見たはず。
私も合わせて歌ってみるけど、上手くいく保証はないわ。
それでも想いをみんなに届けるから…』

暗闇の中、私の声だけが響き本当にみんながこの先にいるのか不安になる。

『誰と歌うのか、そしてどんな歌になるのか…とても楽しみよ。』

そのとき隣の人物が私の右手をそっと握った。

『っ!?』

すると私のブレスレットが何かにぶつかり、聞きなれた冷たい音を鳴らす。

『!!』

―…トキヤ?―

その手を握り返すとよく知ったぬくもりが包み込んでくれた。
この様子は闇の中、誰の目にも見えていない。
私は小さく微笑むと観客に呼びかけた。

『みんなに聞いてほしい…ある人の心の叫びを伝えるから…“Independence”』

ピアノのイントロで私たちはまるでパート分けの打ち合わせをしていたかのように、言葉を紡ぐ。

『Yeah…』
「Oh…Come on!」

呟きのような響きに会場から黄色い声が上がる。
私は甘い彼の囁きに確信した、彼の正体を。
歌い始めるとスポットライトが私たちを照らす。

「キャー!!!」
「LOVERSよ!!」
「かっこいい!!」

私たちはやっと目に映った互いを見て、無邪気に微笑む。
身体全体で私たちは音楽を楽しんでいた。
彼は私のものと似た黒い衣装を着ていた。
胸元がはだけ、肌を曝け出しているのは林檎の趣味だろうか。
私の衣装も着てから気付いたのだが、ばっちりお腹を出すデザインだった。

―もう、リンちゃんったら…―

《independence》

時折、甘く囁くように歌うとよりこの歌のイメージが膨らんでいく。
そして観客の歓声も大きくなる。
2人の声のハーモニーも聞かせながら、吐息も混じらせる…そんな曲。
私たちにピッタリな気がしていたのだ、作曲しているときから。
間奏でも“Yeah…”とアドリブで入れることでみんなを退屈させない。

「イッチー、嬉しそうだね。」
「でもこの楽譜を昨晩受け取ったってことですよね…
こんなに完成度が高いなんて、流石一ノ瀬さん…」
「ハニーの歌を歌うんだ。イッチーも必死だったのさ。
それにあの2人なら打ち合わせなんかなくても、息はピッタリだろうな。」
「それにしても、2人共すごい衣装だな…」
「リンちゃんの趣味だと思うよ、マサ。」
「だからトキヤの奴、ここにいなかったのか…」
「やっと気付いたんですね、翔ちゃん。」
「気付いてたのかよ!」

レン、真斗、那月は頷く。
そのときレンが間奏が終わりに近付いていることに気付いた。

「それより静かにしてくれよ。
ハニーたちの歌が聞こえないだろ。」

レンはメンバーに注意するとステージ上の私たちを真っ直ぐ見る。
その視線に気付いた私たちは揃って心からの笑顔を彼らに向けるのだった。

音楽がやむと同時に私たちは背中を合わせて顔を俯かせる形でポーズをとった。
その瞬間に私たちに贈られる拍手と大きな歓声。
私たちはただ驚き顔を上げる。
そして互いを見て笑った。
…やっと夢が叶った瞬間だった。
私の曲を、トキヤと2人で歌う…そんなもう叶わないかも、と何度も思った脆く儚い夢。
それが今、現実となった。

『夢…叶ったわね、トキヤ。』
「えぇ…」

彼が私の手を強く握る。
それを握り返して、ぬくもりに包まれた。

「これからも…」
『この笑顔を見ていきましょ…?』
「ずっと2人で…」

そのとき見た笑顔を私たちは一生忘れないだろう。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ