Paradox Love(うたプリ REN)
□第1話
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『私がクリスマスパーティーに!?』
「あぁ。レンとお前の曲を聞いてパーティーで歌ってほしいってさ。」
ジョージに告げられ私は困惑するばかり。
「俺がエスコートするよ、レディ。」
『レンくん?』
「キミにとっては初めてのパーティーだけど、俺はもう慣れてるから。ほら、安心して?」
そして彼は微笑んだ。
「俺はキミと一緒ならパーティーも悪くないと思っているんだけど。」
そう言われたら私も断れない。断る気もないのだけれど。
『ドレスとか着るの?』
「もちろん。」
「それは俺が準備しよう。」
そして当日、私は神宮寺家の屋敷でメイドたちによって着つけられていた。
「ホント可愛い子を着つけてるのは楽しいわ。」
「お人形さんみたい〜♪」
淡い桃色のドレスに可愛らしい靴を合わせ、髪もまとめ上げた。
「上出来!」
「女の子がここにはいないから葵桜ちゃんだけなのよ。」
私は鏡に映った自分を見て目を丸くしていた。
『これ…私?』
「そうよ。さぁ、レン様を驚かせてあげて。」
『…私がまず驚いちゃった。』
それほどまでにいつもの自分からは想像もできない私がそこにいた。
すると扉がノックされて返事をするとジョージが入って来た。
「用意できたか?そろそろ行くぞ。」
『はい!』
扉を開けて顔を出したジョージは一瞬驚いた後、誇らしげに笑った。
「俺の目に狂いはなかったな。」
その後ろから顔を覗かせたのはレンだった。
彼はワイシャツ、白いスーツ、グレーのベスト、そして臙脂のネクタイをしていた。
『レンくん!!』
「え、葵桜!?」
変わりすぎていて彼は私に気付かなかったようだ。
「…綺麗。綺麗だよ、葵桜。」
『ありがと。』
初々しい私たちの様子を大人たちは見守る。
ジョージは微笑みながら私たちの肩を押す。
「行くぞ。」
私たちは頷くと歩き出しパーティー会場である豪華客船へ向かった。
大人に紛れて会場に入るとその雰囲気に圧倒された。
「大丈夫。」
レンの優しい声が私の背中を押す。
彼の少し大きな手が私の手を包み込み共に足を進めた。
大人は社交辞令を並べパーティーを楽しまずに仕事の話をしている。
飲み物を受け取り軽食を口にしていると私たちは会場にあるステージへ呼ばれた。
ずっとBGMを奏でていた演奏家たちが私たちを見て表情を驚き一色に染めた。
―この楽譜…手書きだったが、まさか…―
―もしかしてこの2人の曲なのか!?―
―手書きということは作詞作曲をっ!?まだ小学生のはずなのに…―
私たちは彼らに頭を下げてステージへ上がった。
すると社長が言った。
「ご来場くださっている皆様、少しの間彼らの歌で仕事のことを忘れパーティーを楽しむとしませんか?」
社長の言葉に会場が静かになる。
「神宮寺財閥三男のレン、そして彼の友人葵桜が自ら書き上げた曲だ。
まだまだ未熟だが聞いていただけると嬉しい。」
私はステージ上で緊張してしまったが、隣に立つレンを見るだけで安心できた。
私たちは演奏家の指揮に頷いた。
すると爽やかなメロディーが流れ始め、私たちは心から歌を奏で贈った。
この会場に後々人生に大きく関与することになる2人がいたなんて私は知らなかった…
《Not Alone》
「Beautiful Divoですね〜♪
その才能にまだYou自身は気付いていないようですが…」
そう呟くと大柄な彼はサングラスの奥で目を光らせ会場から去った。
歌い終わった私とレンは会場からの拍手に礼をして応えるとステージから降りた。
私の曲が認められたような気がしたのだった。
その後、壁の近くに私たちが立っていると青い髪の少年が話し掛けてきた。
「レンお兄ちゃん。」
「真斗、久しぶりだな。」
『“真斗”…?もしかして聖川真斗くん?』
こうして彼とも出会った。
彼とレンは以前別のパーティーで会っていたらしい。
「さっきの曲聞いたよ。すごいね。」
「葵桜が作曲したんだ。」
『音楽は何よりも好きだから。』
夜が更けてくるとつまらないパーティーを抜け出して3人で船内を探検した。
全員がパーティー会場にいるため他の場所には誰もいない。
広い船内を隅々まで歩き回り、最後はマストに並んで空を見上げた。
「「『うわぁ…』」」
海の上にある船から見上げた空には満天の星が輝いていた。
ふと見た隣に立つレンの瞳が星の光でキラキラしていて、星より綺麗だと思ったのは私だけの秘密だ。
その後も度々パーティーに誘われ私はレンと共に出席し、真斗に会うことも多かった。
彼は私たちよりひとつ年下で律儀すぎるほど古風な少年だった。
ちなみに12歳の誕生日にはレンから赤い薔薇の髪留めを貰った。
私からは再会したあの日から毎回ティラミスを作って贈っている。プレゼントはない。
私に買えるものなんて限られているから。
お金持ちの彼に私が贈れるものなんて手作りのものだけ。
『レンくん、入るよ?』
いつものように部屋に入るととても甘い香りがした。
『…チョコ?』
「葵桜…」
レンは部屋の中で青い顔をしていた。
『これってもしかして…全部バレンタインのチョコ?』
「あぁ。匂いの所為で気分が悪いんだ。」
部屋にあったのは高級なチョコレートばかり。
よくCMで目にする銘柄ばかりだった。
パーティーで会うようなマダムからの贈り物だろうか。
「チョコレートが嫌いになりそうだ…」
『なら私のティラミスも食べないのね?』
「それはいる。」
彼はすぐに俯いていた顔を上げて私を見つめる。
「葵桜のは特別なんだ。
他のチョコなんていらない…」
その言葉に私はティラミスを彼の前のテーブルに置きながら笑った。
『それならここにあるチョコ、貰ってもいい?』
「いるなら全部あげるよ。」
『え…本当?』
「レディたちの贈り物を横流しにするのは気が引けるけど俺は食べないし…
葵桜が欲しいなら好きなだけ持って行って?」
こうしてこの年から毎年バレンタインには彼が受け取った高級チョコが一輪の薔薇と共に大量に家に送られてくるようになった。
これが私をチョコ好きにした理由であり、同時にレンがチョコ嫌い兼ティラミス好きになった理由でもある。
12歳になってすぐ私たちはそれぞれ小学校を卒業し、中学校へ進学した。
それでも連絡は取り合い、時間があれば会った。
「やっぱり中学に入ると忙しいかい?」
『残念ながらね。
オーケストラ部のピアノ伴奏とか、軽音楽部のボーカルに誘われてるの。』
「葵桜らしいね。」
『どちらの部活にも入部する気はないからただのボランティアだけどね。』
そのようにして音楽と関わりを持ったまま中学校生活はスタートした。
「オーケストラではコンサートをするんだろ?」
『えぇ。』
「俺も行っていいかな。」
『もちろん!!』
こうして2年生のゴールデンウィーク、私は制服姿でオーケストラ部の友人たちと円陣を組んでいた。
「最高の演奏を届けるよ!」
部長の声に私たちは歓声を上げた。
私が参加するのは5部構成のうち2、3、5幕。
3幕では私のソロパートもある。
指揮者と共にオーケストラを導く重要な役目だ。
友人に推薦されみんなの前でピアノを弾いたところ採用され、この日に至った。
「公立中学にしては大きな会場を貸し切れるんだな。」
「葵桜の通っている学校のオーケストラ部は規模も大きくレベルも高いらしいよ。」
レンはジョージと共に来場していて少し目立っている。
彼らはそんなことも気に留めず私が贈ったチケットの席に着く。
「いい席だな。」
「葵桜が手配したんだから当然だよ、ジョージ。」
その席は前方寄りの中央、前過ぎることもない。
彼らが席に着いて暫くするとチューニングが始まった。
ピアノは既に調律されているため、私は2幕まで出番待ちだ。
舞台袖で待っていると突然停電になった。
それには流石の私も驚いたが、会場はよりパニックだった。
司会者や会場の担当者が宥めているが状況は悪化する一方。
生徒たちも悲鳴を上げていた。
―この停電の原因は何かしら…
天気も悪くないし、ブレーカーが落ちるようなことがこんなに大きな会場で起きることも普通はありえない…―
私は結構冷静で近くの会場スタッフに告げた。
『あの…どこかの電線が切れてるのかもしれませんよ。
とりあえず急いで非常用照明に切り替えてください。
このままパニック状態が続くとケガ人が出てもおかしくありません。』
「は、はい!」
漸く自分のすべきことを見つけたスタッフは微かな灯りをもとに走りだした。