Paradox Love(うたプリ REN)

□第2話
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私が与えられた名はTAKUTO。
HAYATOに合わせて明るい青色のウィッグ、そして目はカラコンを入れて青みを抑えた。
元の色はなるべく隠したかったのだ。
身長は靴の底と踵を上げて7センチほど誤魔化した。
これでも165センチ程度、男の子にしてはちょっと低いかもしれないが。
メイクはなるべくクールに、そして表情はなるべく変えない無表情キャラを演じる。
歌うときだけ曲に合わせて表情も変化させる。
性格や表情はHAYATOと正反対だ。

「私とは正反対ですね。」
『あぁ。俺までHAYATOみたいなキャラだと五月蠅いだろ?』
「口調もそのようにするのですか?一人称は俺…?」
『当たり前だ。そのうえ声も低めだな。』

キャラ設定も固定させた頃、私たちはticktockとしてデビューした。
2人揃って音楽番組に初出演するまで私の容姿は公開されなかった。

「なんとあの人気アイドルHAYATOがコラボ!
ユニットを組んで新曲披露です!!」

そんな司会者の声を聞くと彼は私の手を握った。
紫色の丈の長い上着に白いズボンを合わせたHAYATO、
そして白いワイシャツに紫色のベストを羽織り、黒い短パンを穿いた私。
HAYATOに手を引かれるがまま私はステージに飛び出した。

「おはやっほ〜♪」
『…Salut!』

何も言わずに歩き出すわけにいかず、私もHAYATOに倣って思いついたままフランス語でクールにかつ甘く挨拶をする。
英語でいう“Hello!”みたいなものだ。
HAYATOを見て上がった歓声が私の登場でより大きくなった。

「かっこいい〜〜〜!!」
「初めて見たわ…」
「HAYATOとは正反対なイメージだけどそこがいい!!」
「TAKUTO、こっち向いて!!」

私は驚きのあまり目を少しだけ見開く。
それに気付いたHAYATOが笑いながら私の手を強く握った。
私も彼だけに見えるよう小さく口角を上げた。

司会者を囲むように出演者が並んで席に着く。
私はずっと表情をあまり変えなかった。
他の人の曲を聞いて感じたことは次々と自分の知識にしていく。

「楽しそうだね、TAKUTO〜♪」
『…まぁな。』

私たちの出番は番組の最後。
最前列の席に2人並んで座り、司会者からの質問に答えていった。

「ticktockのおふたりです。」
「よろしくにゃ〜♪」
『よろしくお願いします。』
「HAYATOは前々から活躍されていますが、TAKUTOさんは初登場ですね。」
『あぁ。俺はまだまだ素人だし、どうして人気者のHAYATOと組むことになったのか不思議で仕方ないんです。
でも、俺の力を試すいい機会だし、HAYATOと協力しながら努力してみようと思ってます。』
「僕とは正反対のTAKUTOだけど〜、本当は優しいんだよ〜♪
僕らの曲はぜ〜んぶTAKUTOが書いてくれてるの〜」
「そうなんですか!?」
『え、まぁそうだけど…そんなに驚くことですか?』
「今回の新曲は僕の声質や今までの曲調から考えて書いてくれたんだ〜♪」

HAYATOが嬉しそうに私の腕にしがみつく。
私は苦笑しながら彼の頭を撫でてやる。

「仲がいいんですね。」
『俺にとってHAYATOは弟みたいなものかな。』
「にゃ〜、ひどい…」

そんな彼の様子に私以外の全員が笑う。
そのとき司会者が気付いた。

「TAKUTOさんはあまり表情を変えませんよね。どうしてですか?」
『元々感情を表に出すのは苦手で…
唯一音楽を通すと自然に俺自身になれるんです。』
「TAKUTOは歌いながらなら表情がコロコロ変わるんだよ?
そこにも注目してね〜♪」
『ハードル上げるなよ…』
「もうひとつ質問よろしいですか?」
『どうぞ。』

時間を見ながら司会者は問う。

「ユニット名のticktockの由来は何でしょう?」
「ticktockは時計の針の動く音だよ〜?」
『限られた時間の中で精一杯楽しむ…そういう思いを詰め込んだものです。』
「なるほど。」

その後、私たちはステージへ移動した。
インカムをしてステージ中央に背中合わせになって立つ。
スタンバイを終えると司会者が言った。

「新感覚ユニットticktockのデビュー曲、“ハッピーライフ!”です。どうぞ!!」

明るいメロディーに合わせて私とHAYATOも歌い出した。
私の表情が柔らかく楽しげなものに変わると観客も司会者も出演者も、そしてスタッフさえも驚いたようだった。

《ハッピーライフ!》

歌い終わると同時に私たちは背中合わせで立って笑った。
歓声が上がり私は目を丸くした。
硬直する私の背中にHAYATOが飛びついてきた。
私はどうにか踏ん張って彼を振り返る。

「やったね、TAKUTO♪」
『…おぅ。』

その後、着替えて私はウィッグとカラコン、メイクはそのままHAYATOと共に氷室の運転する車に乗り込んだ。

「お疲れ。」
「『お疲れ様です。』」
「TAKUTO、いいステージだったぞ。」
『ありがとうございます。』

車が出ると私は変装を解き、自分を解放する。

「よかったですね、如月さん。」
『え?』
「貴女の曲を歌声、そしてパフォーマンスが認められたんですよ。」
『それはHAYATOがいたから…』
「謙遜しなくてもいいですよ。
貴女の才能は私を含めみんなが理解しています。」
『HAYATO…』

隣を見ると彼は優しく微笑んでいた。

「葵桜、部活が終わったらレコーディングだ。行けるか?」
『はい。』
「他にもインタビューや雑誌取材もあるだろう。忙しくなるぞ。」
『覚悟の上です。』
「無理はしないでくださいね。」
『HAYATOもね。』

それから多忙な日々が始まった。
高校の授業に出て、課題もこなし、部活にも参加し、下校時刻以降仕事をした。
モデルの仕事は月に2度まで減らし、ticktockの活動に集中した。
“ハッピーライフ!”を収録し、発売したCDは大ヒット。MVの撮影もした。
全体的に明るく踊ったり2人で顔を寄せたり、ウインクをしたり…楽しいMVになった。
雑誌にも私たちの特集が組まれ、ファッションチェックやインタビューコーナーがあった。
結成について、互いへの印象、次の新曲についてなどなど…
このような日々を秘密を抱えながら楽しんでいた。
レンにはモデルのこともTAKUTOのことも隠し、
友人にはモデルのことはバレてしまったがTAKUTOのことは秘密だ。
私の正体やモデルの仕事のことを知っているのはHAYATO、氷室、スタッフ一同、そしてジョージだけ。
高校2年目が終わりに近づいてくると彼にもあることが指示されていたのだった…
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