Paradox Love(うたプリ REN)

□第3話
1ページ/7ページ

4月がやってきて私は高校3年生に進級した。
レンは早乙女学園に入学し、真斗と同室になった。
だが、そこには以前のように仲のいい2人はいなかった。
トキヤも入学したものの、HAYATOとの両立は大変そうだ。
私は高校で卒業後の進路を問われていた。
用紙を全員が配られ、私は迷うことなく記入すると担任に提出した。
親を交えた三者面談などもあるが、私の両親が学校に来ることができないことは学校側も理解してくれている。

「どうしよう…」
「卒業後のことなんて考えてないよぉ…」
「とりあえずどこかの大学に進んで、4年で卒業できればいいって感じだよな…」
「葵桜はどうするの?」
「やっぱりモデルすんのか?」

音楽の授業のため音楽室へ移動していた休み時間、クラスメイトに問われて私は笑った。

『モデルはしないわ。
それより音楽に興味があるから。』
「音楽?それじゃ、歌手…とか?」
「ダンサーかもしれねぇぞ。
葵桜って運動神経いいからさ。」
『みんなハズレよ。
私はシンガーソングライターを目指してるの。』
「それって自分で曲書いて歌うってことか!!?」
『そうそう。』

そのとき音楽室に辿り着いた。
大きなグランドピアノ、壁にかかった有名な作曲家たちの肖像画、楽譜の山…
俗にいう音楽室がそこにはあるが、グランドピアノだけはとてもよいものだった。
調律だってばっちりだ。
すると男友達のひとりが私を振り返って笑った。

「なぁ、曲書いたりしてるのか?」
『え、うん…少しは…』

―というより、既にみんなが知ってるであろうticktockの曲は私の作詞作曲なんだけど…―

そんなことは口が裂けても言えない。
私の答えに笑顔になった友人たちは私の背中を押すとピアノの前に座らせる。

「何か聞かせてよ!」
「まだ先生も来ないし、いいだろ?」
「私も聞きたい、葵桜の曲!!」
『…それじゃ、一曲だけね。』

私は最近完成した儚い曲をピアノで静かに奏で始めた。
本当はギターで奏でたいところだが、今回はピアノで代用だ。
レンのことを忘れられない未練を込めた失恋ソング…
私の歌声は心に溢れるレンとの思い出と共に音楽室に響いていった。

《Last Around》

私の歌声に導かれるように友人たちは涙を流し、廊下を歩いていた教師や生徒が顔を覗かせた。
それでも私は歌うことをやめず、音楽担当の教師が入ってきても歌い続けていた。
教師さえ目を丸くして授業開始のチャイムが鳴っても私を止めようとはしなかったのだ。

奏で終えると私は小さく息を吐いて顔を上げた。
するとみんなの涙や笑顔が見え、耳には拍手が届いた。

「すげぇよ、葵桜!!」
「如月さん…」
『あ、先生…すみません、勝手に…授業も始まって…』
「構いません。それより、どうして早乙女学園に行かないのですか?
それだけの才能があり、活かさないなんてもったいない!」
『早乙女学園に行こうなんて…そんな勇気はありませんでした。
自分に自信が持てなかったんです。
何もかも独学で、アイドルや作曲家を目指す人々は小さい頃から英才教育を受けているんでしょうから。』
「そんなこと…」
『でも、今のみんなの反応などを見ていたら私でも音楽を極められるって思ったんです。
だから高校を卒業したら音楽学校へ行きます。
そこで学び、自分で納得できる形で音楽を届けたいんです!』

私の返答にみんなは笑った。

「如月さんなら進めると思いますよ、その夢に向けて。」
『ありがとうございます。』
「俺たちも応援するぜ!」
「今の曲だって葵桜の思いのままって感じで素敵だったし♪」
「頑張れよ。」

そんな素敵な友人に囲まれ私は笑うのだった。
レンは入学したものの授業に積極的に参加する気になれず、欠席するようになっていた。
女子生徒に囲まれてチヤホヤされても、心から私の存在が消えるわけではない。

「葵桜…」
「レン様?」
「あ、レディ。どうしたんだい?」
「今、別の方の名前を…」
「なんでもないよ。」
「だって…私たちのことなんて一度も名前で呼んでくださらないじゃないですか。」
「レディみんなに優しいのが俺だからね。
こんな俺は嫌いかな?」

無理矢理笑って女子たちの機嫌をとる。
だが、彼は音楽と真剣に向き合えない自分と葛藤もしていた。

―音楽が唯一の繋がり…でもだから何だっていうんだ…?
いくら努力をしたとしても、どうせ二度と葵桜と歌うことも会うこともできないのに…
ただ俺は財閥の広告塔として活動させられるだけなのに…!!―

彼はひとりになるとサックスを奏でながら私を思い出していた。
無邪気に隣り合って歌えた幼き日々を懐かしく思いながら、いつもまるでお守りのように持ち歩いている一枚の写真を見た。

「もうこの時には戻れないんだろ、葵桜…?」

彼が見ていたのは私が伏せているものと同じ写真だった。
その時期になるとSクラスの担任である龍也はレンを退学にすることを考えていた。
これ以上授業を欠席したり、課題を出さないようなら退学にすると。
そう告げられてもレンは慌てなかった。それどころか笑っていたのだ。
歌詞を書いて提出する…そういう課題。
彼は歌詞を破り捨て音楽に背中を向けた。
その歌詞を集めてくれたのはAクラスの少女、七海春歌。
レンは彼女のことを小羊ちゃんと呼んでいた。

「神宮寺さん、本当は音楽が好きなんじゃないですか?
この前、屋上で聞いたサックスの音色はとても優しかった…
まるで誰か大切な人を想っているかのように…」
「っ…」
「やめないでください、神宮寺さん。
本当の想いを歌に乗せて聞かせてください!!」
「小羊ちゃん…」

―そうだ…葵桜は俺を応援してくれるって言ったのに…
また彼女と会えるかもしれない…そんな最後の希望まで自分で捨ててしまうなんて…―

「俺はまだまだ弱いね、葵桜…」

こうして彼は音楽と真剣に向き合い、退学を免れた。
女子生徒からのお誘いも自分から断るようになった。
授業にも出るようになり同じクラスのトキヤや翔(通称:おチビちゃん)もレンの変貌ぶりには驚いていた。

―やっとスタートラインだ…
キミも元気にやってるかな、葵桜…―

柔らかい笑みで彼はまたサックスを夕日の下で奏でた。
私に届くように願いを込めながら…

「神宮寺…七海のお蔭で変わったか。」

寮で同室の真斗もレンが音楽と向き合ったことを感じ取った。
そんな彼と私はずっと文通をしていた。
彼の丁寧な文字とちょっと古風な文章に私はいつも心和まされている。
彼だけでなく早乙女学園での生活、レンのこと、音楽の勉強のことなども報告してくれる。
彼だけは私が読者モデルとして働いていることを知っている。
手紙の中で伝えてあったのだ。
手紙のことはレンはまったく知らない。
第一、レンと真斗は互いに関与しないから。
真斗だってレンのいない時間に私に手紙を書いていたようだった。

「シンガーソングライターか…
葵桜ならなれるだろう。あんなに素晴らしい才能の持ち主なのだから。
その才能にもっと早く彼女自身が気づいていれば、この学園でまた会えたかも知れぬな…」

その日、真斗は最近学園内で有名になっているHAYATOの双子の弟、一ノ瀬トキヤについて書いた。
顔もそっくりで、歌も素晴らしい、と。
だが、何かが足りずテストでは点数が伸びないらしい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ