Paradox Love(うたプリ REN)

□第4話
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とうとう私の音楽大学入試の日がやってきた。
前日には高校の友人たちに笑顔で背中を押された。

「葵桜なら大丈夫だって!」
「俺たちは味方だからな!!」
「葵桜らしくやってこい!!」
『ありがとう!いってきます!!』

私は自作の曲を口ずさみながら試験会場へ向かう。
たくさんの高校生が試験会場で真剣な顔つきのまま参考書を開いていた。

―あの本…昔レンくんと読んだものだわ…
今更勉強することなんて何もない…
ただ自分を信じて進むだけよ…―

部屋で伏せていた写真を私はこの試験日だけはお守りのように持参していた。
それを取り出し笑顔のレンを見て微笑む。

―そうでしょ、レンくん…―

それから暫くして試験が開始した。
音楽の基礎知識や一小節だけ書かれた楽譜に自由に作曲したり…
そんな私にとっては楽しい試験だった。
試験を終了した時点で落ち込んでいる生徒も結構いる。

―ここは難関音楽大学としても有名…
これくらいの試験で難しいと感じるなら最初から入学は無理ね…―

トキヤから音楽と向き合う勇気を貰った私は自分に自信を持ってこの場に来ていた。
恐れるものなんて何もない。
ペーパー試験の後は面接だった。
1人30分ほどの個人面接。
面接会場が50程あるとしても、受験者数が多いため待ち時間も長い。

「っ…」

ある面接会場に入った生徒はたった5分で部屋から出てきた。

―…厳しいわね。―

その後も10分せずに出てくる生徒が続出した。
それを見ただけで誰が入学許可されるかわかってしまうほどだ。

「如月葵桜さん。」
『はい!』
「どうぞ。」

私は呼ばれて面接会場に足を踏み入れた。
そこにいたのは5人の面接官。近くにはピアノもあった。

「どうぞ、座って。」
『失礼します。』
「早速だけど、音楽活動は?誰かから教わったのかい?
ペーパー試験は完璧だったけど…」
『いいえ、すべて独学です。
幼馴染の少年と音楽を楽しみながら学んできました。』
「幼馴染?」
『はい。彼は早乙女学園でアイドルを目指して頑張っています。』
「へぇ…」
『音楽活動は多少…と言ったところでしょうか。
HAYATOとは友人ですし、シャイニング事務所の方々とも知り合いです。』

そこで面接官の男性が気付いた。

「そういえば…どこかでキミを見たことがあるような…」
「あ!!娘が持っていた雑誌で見たことがあるぞ!
確か…読者モデルのLala…?」
『そのとおりです。
あれはただのバイト…私の夢はシンガーソングライターになることです。
先程申し上げた幼馴染の彼と再び共に歌いたい…
私たちを繋ぐ音楽を極めるためにこの大学を受験したんです。』
「ほぉ…」
「そこまで言うなら聞かせてもらおうか、キミの書いた曲を。」
「歌ってくれるかい。
そこのピアノで奏でてくれればいい。
ただ楽譜は見てはいけないよ。」
『了解しました。』

―おそらくさっきすぐに部屋を出てきた生徒たちは楽譜を見れないことや歌のレベルで追い出されたのね…―

私は小さく息を吐くとピアノで静かにかつ胸に秘めた熱い想いを歌い始めた。
その歌声とハーモニーに面接官は目を丸くする。
彼らの様子を視界の端に捕えながら私は歌い続けた。
この曲は高校でみんなから好評だったもの。
自分の想いを認めたからこそできた今の私にとって最高の曲だ。

―レンくん…貴方のために歌うわ…
同じステージに立つために、そのスタートラインに立つために…―

《ミレナリオ》

鍵盤からそっと手を下ろすと面接官が立ち上がった。
私がはっとして彼らを見るとみんな目を丸くしていた。

「す、素晴らしい…」
「合格だ…間違いない…」
「俺たちだけで決めることではないが、キミはおそらく首席入学になるだろう。」
「ただ…これらの成績を見た限り、私たちが貴女に教えてあげれるのは1年間だけね…
それ以上私たちが貴女に教えることは何もない。
今の状態でも十分なのに…こんなに素晴らしい才能の持ち主に会えるなんて…」
「1年契約でも構わないかい?」
『構いません。
私は独学という過去を拭い去りたいだけ。
きちんと学びたい…学んだという証明が欲しいんです。』
「この大学で学んだという証明が欲しい、そういうことか。」
『はい。』
「わかった。」

こうして私たちは様々な話をして面接開始30分後、部屋を出た。

「来春、また会えるのを楽しみにしているよ。」
『こちらこそ。よろしくお願いします。』

それから数日後、私は読者モデルの仕事を高校卒業と同時に辞めることを仕事関係者に伝えた。

「どうしてだい、葵桜ちゃん!!?」
「卒業してからの方が本格的にモデル活動できるわよ?」
『すみません…
私が本格的にやりたいのは音楽なんです。
読者モデルとして活動して、社会を見つめることができました。
素晴らしい機会を与えていただけたことは感謝しています。
しかし…私の進みたい道があるんです。
大切な人との繋がりを大事にしたいんです。』

私が真剣に言葉を紡ぐためカメラマンをはじめ仕事関係者のみんなは静かに頷いてくれた。

「キミがそこまで言うなら仕方ないね。」
「私たちに葵桜ちゃんを引き留める権利はないわ。
これは貴女自身の人生なんだから。」
『みなさん…』
「卒業前にLala特集を組むとしようか。」
『え…』

私は驚いて息を呑む。
私を笑顔で見守るみんなを見つめ、私は頭を下げた。

『ありがとうございます…』
「よし!そうと決まれば準備を始めようか。」
「「「『はい!!!』」」」

こうして私のけじめもつき、最後のプロジェクトが始まった。


最後の特集のために私はモデルの仕事を遂行していた。
長い撮影を終わらせ関係者みんなに挨拶をして思い出の詰まったスタジオを見て回った。

―ここで芸能界に足を突っ込んで、HAYATOに出逢って、TAKUTOとしてデビューして…
いろいろなことがあったわね…―

そのとき私の前をふらつくトキヤが通った。

『トキヤ…?』

彼の様子に氷室は気付かないままどこか嬉しそうに歩いて行った。
氷室を追うように歩くトキヤはいつも以上に体調が悪そうだ。
私は不安になりながら彼らを追った。
外は雨が降っていて、傘をさして2人は車へと歩き出した。
私は傘を持っていなかったためエントランスからトキヤを見守る。

「今日は大変だったな。明日オフだし、どうだ飯でも。」

そんな氷室の声もトキヤには届いていない。

―そろそろ彼の体力も限界よ…
早乙女学園で仲間たちと練習をして、HAYATOとして体調不良を感じさせない笑顔を見せる…
そんなこと…いつまでもできるはずがない…―

そのときトキヤの身体が傾いた。
私は咄嗟に彼の方へ走り、雨に濡れることなんて関係なく抱き止めた。

『大丈夫!!?』
「葵桜…」
「お、おい!HAYATO!!」
「はぁはぁはぁ…大丈夫です…」
「葵桜!!?どうしてここに…」
『それより…』
「約束が…」

私を押しのけトキヤは立ち上がろうとするが、体力は底を突いていた。
彼は私の方へと倒れてきて再び抱き止めることになった。

『HAYATO!!!』

私は雨に濡れながらもすぐ氷室を見上げた。

『氷室さん!』
「あ、あぁ!!」

彼に車のドアを開けてもらいトキヤを抱き上げると車に乗り込んだ。

『トキヤ…もう限界だよ…』

私たちは彼のマンションへ運び入れ、寝かせた。
彼の服を氷室が脱がせている間に私は氷室に言われたまま医者に連絡した。
医者が来るまでに私はトキヤの身体を拭き、ベッドの傍に座った。
氷室は社長に連絡し、トキヤを私に託すと仕事に戻った。
HAYATOについていろいろ連絡する必要があるのだろう。

「葵桜…」
『仕事があるんでしょう…
ここは任せてください。彼が目覚めるまでいますから。』
「…頼む。すまなかったな。」
『いえ…』

部屋にやってきた医者に現状を説明し診断してもらうと、そこに社長がやってきた。

『社長…』
「久しぶりだな、TAKUTO。」
『…お久しぶりです。』
「キミから首を突っ込んでくるとは思わなかったよ。」
『HAYATO…いえ、トキヤは私の大切な友人ですから。
Lalaとして活動していた私にとって彼は唯一思いを共有できる友人なので。』
「そうか…」
『先程Lalaを引退してきました。
今はただの音楽と向き合う高校生ですよ。』

トキヤの容態を仲間である音也、真斗、那月、レン、翔、そして作曲家の春歌は心配しているだろう。
それを知っていても私は彼らに連絡をしてやることはできない。
グループの今後のためにも私が口出しすることではないからだ。

―レンくん…真斗…みんな…
トキヤを信じてあげて…―

それから暫くしてトキヤはゆっくり目を開いた。

『トキヤ…』
「葵桜さん!!」
『よかった…目が覚めたのね。』
「すみません…貴女にまで迷惑を掛けて。」
『そんなことはいいの。
それより…練習が始まってるんでしょ?』

彼は時計を見てはっとした。
そして急いで服を着ると出掛けようとする。
近くに私がいるのに気にせず着替えはじめるところを見るとそれくらい余裕がないことがわかる。

『私はLalaを引退したわ。
次はHAYATO…貴方の番じゃない?』
「…えぇ。」
「どこへ行くのかね?」

そこに今まで部屋を出ていた社長が帰ってきた。
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