Paradox Love(うたプリ REN)

□第5話
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私は感動を噛みしめながらスタンドからマイクを外した。
それを握り締めスタンドを近くのスタッフに託すと笑顔で言葉を紡いだ。

『次で最後の曲になるわ。』

するとブーイングが起きた。
私は彼らを宥めて再び話し出す。

『私ももっと歌っていたいんだけどね。残念だわ。
最後の曲に私の想いをすべて込めるから。
…大切な貴方に贈るわ。“441”…』

歌い始める前に私はレンを見つめて小さく笑った。

「葵桜…」
「今レンのこと見てたよね…?」
「あぁ。これから歌う曲はレンに向けてってことか?」
「そのようですね。」
「楽しみです〜」

トキヤと真斗以外のみんなが口を開くが、彼らは同じ相手を想っていたこともあり困惑していた。

「イッチー、聖川。
今は悩んでいる場合じゃないだろ?
葵桜の曲を聞いてやってくれよ。」
「そ、そうだな…」
「はい…」

レンの隣にいたトキヤは一度落ち着いてからレンに向けて言った。

「…レン。」
「なんだい?」
「いくら葵桜さんとレンの絆が強くても、私だって今すぐに諦めることなんてできません。」
「それくらいわかってるさ。
そんなにすぐ諦められるような想いなら俺と葵桜の仲を知ったときに既にけじめがついてるだろうからな。」
「だから…今は想い続けるとします。」
「すまぬが俺もだ。」
「誰を想おうが自由だろ?
ひとつ言えることは…葵桜が俺たちを夢中にさせるほど魅力的だってことだな。」
「あぁ。」
「はい。」

音也、那月、翔、春歌は3人が互いの想い人に気付き関係がぎくしゃくしてしまわないか心配していたが、彼らが笑ったため安心したのだった。
私が小さく息を吐くとメロディーが奏でられ始めた。
私もすぐ歌い出す。すると会場は静かになって私の歌声だけが響き始めたのだった。

《441》

レンは歌詞の一部にはっとした。

―花火大会…
俺たちが初めて行った海の近くでやっていた花火大会か…―

この歌詞に込められた私とレンの思い出の欠片…
それに気付くのは私たちだけだ。

私は歌い終わると笑顔を残して手を振りながらステージから去った。
生徒たちは歓声を上げたまま興奮が治まらない様子。

「さっきの人、凄かったね!!」
「どうしてあんなに凄い人が早乙女学園にいなかったんだろ…」
「肩書きだけで馬鹿にしてた自分がイヤになるわ…」
「Lalaってあんなに歌が上手かったんだね!!」

興奮気味の生徒の声を聞きながら龍也と林檎は学園へ戻る指示を出そうとする。
だが、彼らを早乙女は止めた。

「シャイニー?」
「何考えてるんだ?」
「もうちょ〜っと待っててくださ〜い!!
もしかしたらまだステージはfinishしてないかもナノナノ〜」
「「?」」

龍也と林檎は意味が分からないとでも言いたそうに首を傾げた。
だが早乙女は笑うだけ。

―さぁ、ミスター神宮寺…
このチャンスをYouはどう使いますか〜?―

私の曲の余韻に浸っていたST☆RISHと春歌…
まず口を開いたのは翔だった。

「す、すげぇ…」
「はい…一瞬で世界に取り込まれてしまいました…」
「ねぇ、レン…441ってチューニングのことかな?」
「あぁ。ギターやピアノなんかのチューニングで基準になるA…441Hz。
擦れ違った想いをチューニングのように合わせてひとつにしたい…そんな葵桜の願いだろうね。」
「レン…行かなくていいのですか?」
「え?」
「葵桜は神宮寺のことを待っているのではないのか?
さっきの曲はお前へ向けたメッセージだったのだろう?」

トキヤと真斗の言葉にレンは目をぱちくりさせる。
音也、那月、翔、春歌も笑顔に頷いた。

「…ありがとう。」

レンはすぐに立ち上がり当てもなく私を探しだした。

―ステージから降りて…葵桜ならどこへ行く…!?―

そのとき校舎の窓に人影が映った。

「葵桜!!」

レンは必死に私を追い掛け、誰もいない廊下で私に追いついた。
彼は歩き続ける私を背後から抱き締めた。

「葵桜…」
『レンくん…』
「やっと捕まえた…」
『久しぶり。心は決まったわ。』
「あぁ、俺もだよ。」

私たちの間にこれ以上の言葉はいらない。
25センチの身長差のある私は彼の腕の中へすっぽり納まってしまう。
彼の腕を撫でて少し緩ませると身体を反転させて彼の胸に頬を摺り寄せた。
彼はより強く私を抱き寄せてくれる。

「キミのことを諦めることなんて元々不可能だったんだ…」
『私もレンくんを想うことが曲を作る本当の理由だった…
忘れることなんて…諦めることなんてできないよ…』
「アイドルだってことなんて関係ない。
俺はひとりの男としてキミを…葵桜を愛してる。」
『レンくん…』
「ずっと…きっと初めて逢ったときから好きだ。
だからもう離れないで…何があっても俺の近くにいて?」

私はレンの広い背中に手を回した。

『うん…大好きだよ、レンくん。
音楽もレンくんのことももう諦めない。
どんな壁があっても私たちなら…』
「乗り越えられる…」
『傍に居てね、レンくん…』

そう呟くと彼は甘く私の耳元で囁いた。

「俺だけのお姫様のお願いとあらば…」
『もう…』

私たちは互いに微笑むと自然の近付いて唇を重ねた。
彼は私の腰を抱き、私は背の高い彼の首に腕を絡めて背伸びをしながら甘い口付けを交わしていた。
唇を放すと2人で額を当てて笑った。
そのときだった、例のあの人の高笑いが聞こえてきたのは…

「ハハハのハ〜!!!」
「『っ!?』」

すると近くの窓が割れて早乙女が飛び込んできた。

『社長…』
「今までの様子、見せてもらいました〜♪」
『…アイドルに恋愛はご法度。
私たちのデビューを取り消しますか?』

私とレンは早乙女を恐れることなく真っ直ぐ彼を見つめた。
レンは私の肩を抱き寄せたまま。
私も彼の服を握ったままだった。
互いの手に力が入っているのは不安が隠しきれないから。

「Youたちのような才能を失うのはもったいないのね〜
それにYouたちは互いを失うと今のようなNiceなハーモニーを奏でられないのデショデショ〜?」
『私たちはもう離れる気はありません。』
「音楽も葵桜も…もう諦めないと決めたから。」
「Youたちの決意はわかりました〜
その想いが足枷になってもYouたちは後悔しませんね〜?」
「『はい。』」
「それならMeは交際を認めま〜す!!」
「『…え?』」

私とレンはあっさり認められたことに驚きを隠せない。

「BUT〜!!条件がありま〜す!!」
『だと思った…』
「まずミス如月、Youは必ずMeの事務所に所属すること〜!!
QUARTET NIGHTが認めようが認めまいが関係Nothing!!」
『わかりました。私自身として所属させていただきます。』
「そしてもうひとつ〜!!
今からticktockの完全解散ライブをしてくださ〜い!!」
「『はぁ…?』」

私とレンは違う意味で同じ言葉を発した。
レンは何故私にticktockの話が関連するのかという疑問を投げかけ、
私はどうしてトキヤまで巻き込んでそんなことをしなければいけないのかと慌てたのだ。

『ま、待ってください!
トキヤまで私たちの問題に巻き込むわけには…』
「構いませんよ。」

そのとき私たちの背後からトキヤの声がした。
私とレンが振り返るとST☆RISHと春歌が立っていた。

「話はすべて聞かせていただきました。」
「盗み聞きのようなことをしてしまいすまぬ。」
「ごめんね、レン。
それから葵桜…さん?」
『葵桜でいいよ。』
「私と葵桜さんがticktockとして歌えば2人のデビューを取り消すことはない…
そういうことですよね、社長。」
「そのとおりで〜す、ミスター一ノ瀬!!」
「そうと決まればすぐに準備しますよ、葵桜さん。」
『え、うん!』

そして私たちが走りだすと仲間たちも追ってくる。

「イッチー…」
「貴方が欠けるとST☆RISHも成立しないでしょう。」
「…ありがとう。」
「感謝されるようなことは何もしていません。」
『…私もこの機会にすべてを暴露するべきね。』
「私もけじめをつけれそうです。」
『行くぜ、HAYATO。』

私はすぐにTAKUTOのスイッチを入れた。

「はい!!」
「「「「「「え!!!?」」」」」」

私とトキヤ以外の全員がその場で足を止めた。

「ticktockと言ってたからまさかとは思ってたけど…」
「葵桜がTAKUTO…なのか、神宮寺?」
「…俺に訊くな、聖川。」
「…とりあえず会場に戻ろうぜ?」
「そうですね…」
「葵桜ちゃんとトキヤくんのステージを見ればすべて解決しますよ〜!!」

ステージへと走って行く私たちの後ろ姿を横目に見送って、彼らは会場へ戻ったのだった。
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