Paradox Love(うたプリ REN)

□第6話
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ST☆RISHのデビューライブから数ヶ月後、私はQUARTET NIGHT(カミュ以外)と共にマスターコースの寮に来ていた。
カミュは今頃愛島と呼ばれる人物を迎えに行っているだろう。
ライブ後、ST☆RISHにもマスターコースのことが伝えられたが、彼らは私もここに住むとは知らないようだった。

―それなら私も言わないでおきましょ…
社長がわざと秘密にして驚かすつもりなんだろうし…―

大学には既に通い始めていて、素敵な友人も増えた。
ただどうして私が首席入学なのかと不満を抱く人もいて入学当初はいろいろあった。
例えばお嬢様育ちの数人の女子に囲まれて問いただされたりとか…

「どうして貴女が首席なのよ。」
「誰に音楽を教わったわけ?」
『誰からも。すべて独学よ。』
「何よ、ソレ。音楽を甘く見てるの?」
「見た目はいいとして…って貴女Lalaじゃない!!」
「ツテで入学したってこと!?」
「最低ね…」
『大人しく聞いてれば酷い言い様ね。
私の曲を聴いたこともないくせに好き勝手言わないでくれるかしら。』
「なんですって…」
「いいわ、次の授業でどうせ歌うでしょう。
そこで聞かせてもらおうじゃない。」

そして次の授業では即興で5分の間に曲をワンフレーズ作りその場でピアノを弾き歌うよう課題を出された。
私はあっという間に曲を書き上げ、ワンフレーズどころか1分ほどの短い曲をその場で思いついた歌詞と共に奏でた。
それからというものお嬢様方も私に何も言わなくなったのだった。
そのことを嶺二、蘭丸、藍に話すと彼らは笑った。

「如月を敵に回すとはバカな奴らだぜ。
俺たちの作曲家をナメんじゃねぇ。」
「まぁ、公表してないから葵桜が僕らの作曲家だとは思いもしないだろうけど。」
「僕ちん、鼻が高いよ〜
やっぱり葵桜ちゃんは凄いよ〜」
『ありがと、れいちゃん。』

マスターコースでは男子と女子で寮が少し離れている。
建物としては同じなのだが、長い廊下で繋がっているだけで距離が遠いのだ。

『私だけ遠い…』
「文句を言うな。
男女同じ屋根の下で共同生活ってのもどうかと思うのによぉ。」
「それに七海春歌だっけ?
ST☆RISHの専属作曲家も入寮するんでしょ。
葵桜だけが遠いわけじゃないじゃん。」
『それもそうね。』

私たちの荷物は運送業者によってそれぞれの部屋に運び込まれている。
一度彼らと別れ私も部屋の片づけを行った。

『隣の部屋がハルちゃんか…
寂しくなったらお喋りしに行こうかしら。』

暖かい日射しの下、私は窓を開けて歌いながら荷物の片付けをしていた。

「葵桜が歌ってる…」
「ここでも聞こえるってことはアイツ窓開けてるな…?」
「やっぱり葵桜ちゃんの歌声って綺麗だな〜♪」

私たちが片付けを終え4人でホールに集まっていると次々にST☆RISHが到着した。
私たちはすぐに身を隠し、出番を待つ。

「どうして俺たちが隠れないといけねぇんだよ。」
「仕方ないでしょ。」
『社長がST☆RISHに私たちのことを伝えてないんだから…』
「とりあえずここで静かにしてようよ、ランラン。」
「チッ…」

まずやってきたのは音也と真斗。
彼らは荷物を片付け、音也は事務所へ駆け出し、真斗は引っ越し業者を春歌の部屋に案内したついでに掃除をしていた。
続けてトキヤとレンがやってきて、荷物を片付けていった。

『どうしてレンくんはあんなにたくさんの薔薇を持ってるのかしら…?』
「それにしてもレンレンって薔薇がよく似合うね〜」

最後に那月と翔がやってきた。
那月は片付けをあっという間に済ませると外でうたたねを、翔は少し遅れて外へ出た。
翔が寮の扉を開いた瞬間、目の前に春歌がいた。
彼女は迷子になっていたらしく、音也に教えてもらって寮に辿り着いたという。

「これで全員揃ったね。」

那月が春歌に抱きつき、外は騒がしくて、
解放された春歌が部屋に向かおうとするとトキヤとぶつかってしまうし、
彼女の部屋にはなぜか掃除をしている真斗がいるし、
片付けをしていると扉をノックされたくさんの薔薇と共にレンに詰め寄られるし…

―おばあちゃん…マスターコースは刺激が強すぎます…!―

彼女が嘆くのも不思議ではない。

「おや?」

春歌の部屋から歩み去る時、レンはふと彼女の部屋の隣に掲げられている表札を見つけた。

「へぇ…キミもここに住むんだね、葵桜…」

―それなら今どこにいるんだい…?―

彼は一輪の深紅の薔薇を私の表札近くに挿すと笑みを零して立ち去った。
片付けを済ませたST☆RISHはピアノのある大きな部屋、すなわち私たちが隠れているホールへやってきた。

「楽しみだなぁ…」
「新しい生活が始まるのだな。」
「小羊ちゃんとひとつ屋根の下でね。」

レンの言葉に音也が頬を染めてニヤニヤする。
その場に集まっていた真斗、トキヤ、レンは音也をじっと見る。
那月と翔はまだやってきていなかった。

「何を考えていたのかな〜?」
「ななななな何も考えてないよ?
七海と一緒で嬉しいなぁなんて…あ!!」
「音也…私たちアイドルは恋愛禁止のはず。
これを破ればクビですよ。」
「まぁ、それでも俺は葵桜のことを諦める気はないけどね。
社長直々の許可なら得てるし。」

彼の言葉に真斗とトキヤがレンを睨む。
だが、その視線を真っ直ぐ受け止めたレンに怯えた様子はなかった。
そこに那月と翔がやってくる。

「練習室も広いし、最高じゃん!」
「僕も気に入りました。
超超幸せです!ここでハルちゃんと一緒に暮らせるなんて♪」
「い、一緒って女子寮は風呂、別だろうが!!」
「でも、同じ屋根の下で眠るんですよ?嬉しいなぁ〜〜」
「ここにも浮かれた人間がひとり…」

音也と那月の様子にトキヤが溜息を吐くと同時に春歌が駆け込んで来た。
彼女は次々とST☆RISH6人にソロ曲の楽譜を渡していった。
みんなが嬉しそうに楽譜を見ているのを私は少し切なく思いながら見つめた。

「どうしたんだ、葵桜。」
『ん?ちょっと羨ましいなって思っただけよ、ランラン。』
「葵桜ちゃんだって僕たちに曲をくれてるじゃな〜い?」
「それとこれとは話が違うんだよ、きっと。」
『レンくんがあんなに嬉しそうにしてるのはちょっとね…
私が曲を贈ったときも喜んでくれるけど。』
「ST☆RISHの専属作曲家はあの女だからな。
イチイチ落ち込まないでお前はお前らしい曲を書けばいいんだよ。」
『ランラン…そうね、ありがと。』
「…おぅ。」
「ランランが照れてる〜」
「照れてねぇ!」
「静かにしてよね。ST☆RISHにバレちゃうでしょ。」

そこに早乙女の笑い声が響き渡った。

「フハハハハ!!」
「この声って…」
「もしかして…」
「仲睦まじいアイドルのアイは情愛の愛!!」

早乙女はそう叫びながらリボンを器用に操って上階から登場した。
彼はデビューライブが素晴らしかったと賞賛してからすぐ真面目な顔で言葉を紡いだ。

「華々しく咲いても花火のごとく散っていく者が多いのも、リアルまじ!
夜空に輝く本物の星になるには、精進あるのみ〜」

その言葉は私、嶺二、蘭丸、藍の胸にも突き刺さった。
芸能界の厳しさは私たちだってよく知っているからだ。

「それに欠かせぬ助言者を紹介しよう!!」

早乙女の言葉に従って私たちはピアノの前にスタンバイした。
さっきまでST☆RISHが囲んでいたピアノが今は早乙女が出現させたモニターで隠されているのだ。
モニターも特別仕様のようで紫色の光を放つただの光に過ぎない。
プロジェクターも大きなモニターもなくどうやって映しているのか不思議なものだが追求はやめよう。

「助言者…?」
「さぁ、姿を見せるのだ!!」

今日カミュがいないことはわかっていたため、1番はカミュの声も収録した映像を流すが、
2番からはこの場にいる4人で歌い上げなければいけない。
カミュのパートに私も入り込み共に歌う。
早乙女の言葉に応えるように歌が始まってモニターに私たち5人の姿が映しだされた。

「彼らは…!!」
「葵桜とQUARTET NIGHT!!?」

彼らの驚く声に笑いながら私、嶺二、蘭丸、藍も映像に合わせて演奏し、歌い始めた。

「マスターコースで…」
「この先輩たちが…」
「僕たちの助言者…?」
「まさか葵桜さんも助言者だと言うのですか…?」

歌に魅せられた仲間たちが呟き、この曲を聞いた早乙女はサングラスの奥で目を光らせた。

―ミス如月の曲でこれほどまでにQUARTET NIGHTが変わるとは…
彼らにとってもよい変化かもしれませんね…―

《You're my life》

「す、すごい…」
「踊っているわけでもない…
それなのに魅せられる…」
「これが…プロ…」

するとモニターが一瞬で消え、ピアノを囲む本物の私たちにステージが変わる。

「え!?」
「本物に変わった!!?」
「葵桜ちゃん、いたんですか〜!!?」

私は彼らにウインクを贈って嶺二、蘭丸、藍と共に歌を奏で続けた。
彼らは私のいるピアノを囲んで笑みを交わして歌ってくれる。
曲の終わりに歌詞に合わせた演出として嶺二と藍は私の頬に、蘭丸は右手の甲にキスを贈った。
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