Paradox Love(うたプリ REN)

□第7話
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翔の撮影が進み、他の仲間たちにも仕事が舞い込んできた。
真斗は時代劇ミュージカル“正義の歌う剣士 響歌右衛門”のオーディションを受けることになった。
舞台の最後にはヒロインを抱擁しなければならないのだが、
なかなか出来ず私が学校に行っている間に仲間たちは練習に付き合ったりした。
私は帰寮後、みんなに真斗のことを聞きオーディション前日に彼を励ましに行った。

『真斗…』
「葵桜…」
『オーディションのこと聞いたわ。』
「情けないことだ…」
『そんなことないわ。それだけ真剣ってことでしょ?』
「そうではあるが…」

私はすっと彼に近付くと背伸びをして彼を抱き締めた。

「なっ…!!」
『芝居は現実ではないわ。お客さんにとっては夢の世界…
時を忘れ、役者と客が同じ夢を楽しみ愛でるもの…』
「はっ!」

すると彼の身体から余分な力が抜けたようだった。
私は笑みを零すとゆっくり彼から離れる。

「葵桜…礼を言うぞ。」
『答えは見つかったみたいね。明日、頑張って。』
「あぁ。」

―じぃ、見ていてくれ…―

彼はそのまま迷わず真っ直ぐ歩き出した。
春歌に貰った恋桜を歌って彼は見事合格して役を勝ち取ったのだった。

音也は仕事の合間に自分の育った施設へ顔を出していた。
バザーのためにかわいいお化け屋敷を春歌も協力して作り上げていった。
途中からセシルも手伝いに来てくれて、当日は仲間たちも駆けつけた。
バザーにお客さんが少なかったため、音也は春歌に貰ったSMILE MAGICをギターで奏でた。
歌はたくさんの人を元気にする。
仲間たちの協力もありバザーは盛り上がり、私も学校帰りに立ち寄った。

『あれ…?みんな集まってる…』
「葵桜、来てくれたの!!?」
『お疲れ様、音也。楽しそうね。私も手伝うわ。』
「ありがとう!!」

続いてレンが神宮寺財閥が提供しているJAPAN BOYS COLLECTIONに出演することになった。
財閥に関連しているためレンは出ることを少しためらっていた。

『レンくん、それを理由にやめたりはしないよね?』
「あぁ。俺の個人的な理由でやめたりなんかしないさ。
ただ財閥にとって必要なのは次男まで。
三男の俺はやっぱりおまけなんだなと思ってね。」
『レンくん…』
「でも俺らしくやってみようと思う。」
『その調子よ、レンくん。
財閥のことなんて考えずに貴方の熱いハートで魅了してしまえばいいの。』
「葵桜…」
『レンくんの歌、大好きよ。
聞いているだけで胸が暖かくなるの。』
「ありがとう、葵桜。やってみるよ。」

彼は私を抱き締めて心を落ち着かせるとファッションショーに臨んだ。

―俺は変わったんだ…
小羊ちゃんや葵桜に出逢って心から歌いたいと思ったんだから。これは誰にも強要されない俺自身の想いだ…―

レンは衣装のフードを被ると颯爽とランウェイを歩き出した。
私はというと学校の帰りに急いで会場へ向かい春歌、友千香、セシルと合流していた。

「葵桜さん!」
『間に合った…』

ランウェイを歩くレンを見ると彼が一瞬笑みを見せてくれた。
だが、その瞬間停電になってしまい会場全体が闇に包まれる。
レンはフードを外して周囲を見回した。
観客に不安が広がりパニックになるのも時間の問題…
そう思ったのは私だけではなく、ランウェイにいるレンも同様だった。
すると彼は闇の中から会場に甘くそれでいて強く呼びかけた。

「聞いて、レディたち!」
『レンくん…?』
「暗闇の中だからこそ、伝わる想いがあると思わない?
俺とレディ、お互いの呼吸や心臓の音まで聞こえそうだよ!!」
「神宮寺さん、何をする気なんでしょう…」
「聞いて、マイ・レディ…
俺の歌でキミたちのハートに火を灯したい!!」
『もしかして…』

私はさっと隣に座っていたセシルの持つCDに目を止めた。

『レンくんの曲のCDも持ってる?』
「はい。」
『ちょっと貸して!』

私はセシルの手から奪うようにCDを受け取ると舞台裏へと走った。
そこで偶然会ったのはレンの兄、誠一郎だった。

『誠一郎さん!!』
「葵桜さん!?」
『これを…レンくんの曲です…
今すぐ流していただけませんか?』
「レンの…!」
『専属作曲家の七海春歌さんから借りてきたんです。
レンくんならこの緊急事態だって素敵なステージに変えられる。』

私が真っ直ぐ誠一郎を見ると彼は私の腕を掴んだ。

「一緒に来い。キミの手でレンに音楽を届けてやってくれ。」
『はい!!』

彼に連れられるまま私は走り機材室に足を踏み入れるとCDをセットした。
流れ始めたメロディーにレンの情熱的で甘い歌声が乗り、会場へ響いていきたくさんの人の心に炎を宿した。

「変わったんだな、レン…
キミのお蔭かな、葵桜さん?」
『私なんて何もしていませんよ。
またこうやってレンくんと共に歩めるようになったのは仲間たちがいたからです。』
「そうか…キミもずっと見ない間に綺麗になったし、大人っぽくなったようだ。」
『お褒め戴いて光栄です。』

こうしてショーは無事終了した。
私はレンの楽屋に通してもらってそこで彼の帰りを待った。

「葵桜!!?」
『お疲れ様、レンくん。』
「俺の曲を流してくれたのってキミだったんだね。」
『えぇ。誠一郎さんにお願いして機材室まで通してもらったのよ。』
「兄さんに、ね…」

その後、会場の外に出ると誠一郎がいてレンと2人で話していた。
レンを早乙女学園に入れたのは広告塔にするためではなく、その才能を認めていたからだったと伝えられレンは目を丸くするしかない。

「頑張れよ、神宮寺レン。じゃあな。」

優しい兄の表情を浮かべた誠一郎はそのまま立ち去った。
神宮寺家に通っていた頃から久々に会った彼に私はゆっくり頭を下げて見送った。

「レンを頼む。」
『はい、こちらこそ。』

私はレンに歩み寄り彼の大きな手を握った。

『良かったわね、レンくん。』
「あぁ…まさか俺を音楽の道へ入れるために早乙女学園に入学させたとはね。
ずっと俺を見ていたっていうのか…
フッ、やってくれたね…」
『素敵なお兄様じゃないの。
さぁ…帰ろう、レンくん。』
「そうだね。」

彼の心のしがらみはすっかり消え去ったのだった。
セシルは音也と共にバラエティの番組に出演してアイドルの仕事を体験した。
たくさんの人々の笑顔がそこにはあって、セシルも魅了されていくのだった。

那月にはモデルの仕事がやってきた。
強い感じを求められても、それは眼鏡を外したときに現れる砂月のもの。
私も翔から始めて砂月のことを聞かされたときは驚いたものだ。
那月は春歌の曲を通して強くなろうと思っているのだ。
自分の中にあるもう一人の自分、すなわち砂月の存在も薄々気づきながら…
それを春歌に伝えられた砂月は那月を呼び戻し、かっこよくモデルの仕事をこなした。
彼が仕事の合間に歌ってくれたシリウスの誓いは力強く自分を認めつつ、愛を歌うものだった。
それからすぐ彼らは合宿に行ってしまい、私は独りマスターコースに残された。
合宿にはQUARTET NIGHTも同伴したのだが、私は学校もあるため行けなかったのだ。
セシルはアイドルになると心を決め、ST☆RISHに加わった。
アグナパレスに一度戻り、王にST☆RISH加入の許可を得て来た。
その合宿の中で彼らはマジLOVE2000%を完成させ、本格的にうた☆プリアワードへのノミネートが決まった。敵はHE★VENS。
負けた方は解散だなんて、早乙女も酷い条件を出してくれたものだ。
その報道を私は大学の友人たちと学校で見ていた。

「今度のうた☆プリアワード、激しい戦いになりそうね。」
「でも勝つのはHE★VENSだろ。
ST☆RISHは解散か…」
「最近ST☆RISHも活躍してきたけど、やっぱりHE★VENSにほぼ受賞は決まってたようなもんだからな。」
『そうかしら?
ST☆RISHならこれからひっくり返す可能性も十分あると思うわよ?』
「葵桜はST☆RISHの肩を持つのか?」
『肩を持つというか私はST☆RISHを応援しようかな。』
「へぇ…」

それから私は学校のみんなに手を振ってバイクで寮に帰ろうとした。

―今日はみんなが帰ってくるし…夕飯は何にしようかしら。―

駐輪場で鍵をバイクに挿そうとした瞬間、背後から声を掛けられた。

「あの…如月さんですか…?」
『はい?』
「やっぱり…Lalaちゃんだ…!」
『え…?』

振り返った途端に目の前にニッと笑った男性がいて、口に何かを押し当てられた。

『っ!!?』

何かを吸い込まされて身体から力が抜けた。

―レン…く…―

意識がなくなり私はその男に抱えられ近くに停められていた車で運ばれていったのだった。

「「「「「「「「ただいま!!」」」」」」」」

春歌とST☆RISHが寮に帰ってきて私に向けて言う。
だが、返事が返って来ない。

「あれ?」
「葵桜…?帰ってきているはずなんだけどね。」

後から入ってきたQUARTET NIGHTも不思議そうに顔を顰める。

「あの葵桜が時間通り帰って来ないなんて珍しいな。」
「如月に限ってそのようなことは有り得まい。」
「夕飯はなかったとしても、僕たちを向かえないなんてことはないと思うよ。」
「何かあったのかな〜?」

レンは私の携帯に連絡した。
だが、その電話はとられることがない。
気を失った私の近くに置かれた鞄の中で鳴るだけだ。

「出ない…おかしいな。」
「バイクで帰って来てる途中かもしれないぜ?
とりあえずもう少し待ってみないか?」

翔の提案で彼らは合宿の荷物を片付け、数時間後再び食堂に集まった。

「帰って来てない…」
「やっぱりおかしいです!!」
「社長なら何か知ってるかもしれないよ!」
「Meを呼びましたか〜?」
「社長!!」
「葵桜がこの時間まで帰らないうえ、連絡もつかないなんておかしいと思わないかい?」
「Oh〜?ちょっとMeも調べてみましょう〜
ミスター美風、Youも調べてみてくださ〜い!」
「わかった。」

そのとき藍が学校内の監視カメラで駐輪場に置かれたままになっていた私のバイクを見つけた。

「これって…」
「葵桜さんのバイクです。間違いありません。」
「ってことは、まだ学校にいるのか?」
「ちょっと待って、おチビちゃん。
このバイクには鍵が刺さってる…」
「何を言っている、神宮寺。
葵桜が鍵を挿したまま放置するわけがなかろう。」
「それくらいわかってるさ。
でもこの映像では鍵が刺さってるんだよ。おかしいと思わないか?」
「それって…葵桜さんが攫われたとでも言うのですか、レン…?」

トキヤの言葉に仲間たちの周囲にある空気がピンと張りつめた。

「そのとおりのようで〜す!」
「どういうことだ。」
「ミス如月はYouたちが帰る5時間前から行方不明だということがわかりました〜
この場所でsomeoneに攫われたと考えるのが妥当で〜す!!」
「そんな…」
「こんなときに…」
「僕ができる限り情報を探してみるよ。」

そのときレンはあることを思い出した。

「アイミー、さっき葵桜の携帯と連絡がついた。
それって電源がついてるってことだよね。
GPSで場所を特定できないかい?」
「やってみる。」

全員で祈るように藍のパソコンの画面を覗き込む。
だが、そこには結果が現れなかった。

「電源を切られたみたい…」
「さっきの連絡で犯人に携帯のことを気付かれたか…」
「クソッ…」
「焦っても仕方あるまい。
冷静に情報を集め、如月の場所をあぶりだすのが最善だろう。」
「そうだね…」
「仕事はきっちりこなすべきだよ。
キミたちが仕事を休んだら何かあったって勘付かれる。
マスコミに騒がれたら探すのも困難になるし、犯人が興奮状態になったら葵桜に何をするかわからないから。」
「わかりました…」
「何があっても笑顔で…それがアイドルの基本ですからね…」

こうして彼らは仕事をこなしつつ、私の行方を探し始めたのだった。
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