短編

□明日死ぬんだってさ
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死ぬということがどういうことなのか正直、今生きている俺にはわからない
物語や言い伝えで語られている天国や地獄、そんなものを実際に見た者などいないのだから死んだ後にどうなるのかなんて誰にも理解などできるはずが無いだろう?


そのはずなのにコイツは知ったような顔で、声で言ってのけてみせた





「俺、明日死ぬんだってさ」





コスモスに託されたクリスタルの力、それは秩序の戦士達に僅かな希望を見せていた
一度倒したはずのカオスの戦士は復活し、各々が自分の宿敵を相手にする
戦い続きで疲労しながらも彼らはクリスタルによって己の世界のこと、仲間のこと、恋しい者のこと、失っていた記憶を取り戻すことで決して止まることなく前へと進んでいた
一刻も早く元の世界へ戻るために



そんな中ただ一人、皆とは違う変化を見せる者がいた




(…………何だ?)




違和感を覚える、いつもはどこにいても聞こえてくる彼の声が聞こえないのだ
この神々の世界において唯一武器や魔法による争いを経験していない男、戦闘で他の者よりも圧倒的に遅れをとっているにも関わらず持ち前のセンスと運動神経で必死に追いついてくる自分と同い年の青年
その彼のスポーツマンらしい鼓舞するような声が聞こえない


前はうるさいくらいに秩序陣営に響いていたというのに



(そういえば、コスモスが消えてからだったか……)



元の世界の記憶が戻ったことで何か思うことでもあるのだろうか





「ねぇスコール、ティーダを知らないかな?」


キョロキョロとあたりを見渡しながらセシルが問いかけてくる
どうやら朝何処かへ出掛けたきり戻ってこないらしい、それでは声が聞こえないはずだ
普段ティーダと行動を共にすることが少ないスコールに聞いてくるということは恐らく誰も知らないということだろう



「いや、見ていない」


「そうか……明日は遂にカオスの居城に行くっていうのに、どこに行っちゃったのかな」


「……俺も探してみよう」



秩序陣営の奮闘によりカオスとの決戦は目の前まで来ていた、その為今日はじっくりと作戦を講じるはずだったのだが全員揃わなければ意味が無い
スコールはため息を吐きながらゆっくり歩きだした





おかしい、と思った


彼のはずなのに何かが違う、水に濡れているせいだろうか
拠点から少し離れた林の中、木々の色を反射し不思議な色合いに輝く小さな湖に彼、ティーダを見つけた
水分を含んだ髪から額を伝って水が滴り落ちている、まるで泣いているようにも見える
しかしそれよりも気になったのは、いつもはこれでもかと言う程主張してくる彼の存在感がまるで泡のように儚く感じられたことだった



「……スコール、何してんすか?」


「お前を、探しに来た……みんなが待ってるぞ」


「あ、そっか、今日は作戦会議やるんだったっけ」



やべぇ忘れてた、ティーダは右手で頭をガシガシとかき乱す
それは彼の癖だ、その癖が出たことでようやくスコールは謎の緊張の糸が解けた気がした


「早く戻るぞ」


「……あー、うん、了解っす」



とぼとぼと2人で歩き出す、スコールの三歩後ろを一定の距離でついてくるティーダ
そんな僅かな距離が居心地の悪さを感じる、
明日予定されているカオスとの戦いに緊張でもしているのだろうか、それとも何か良くないことでも思い出したのだろうか、いや、自分と関わるのが苦手なのかもしれない、悶々と一人で考えてしまうのは自分の悪い癖だ



「……ティーダ、」



彼の名前を呼んだ、沈黙を何とか脱したかったのだが如何せん話題が思いつかない



「……何、人の名前呼んどいて放置っすか?」


「いや……その、」



何かあったのか?
その一言が出て来ない、果たして言っていい言葉なのだろうか
自分とは何もかもが正反対だからと、一方的に深く関わることを避けてきた己を今ばかりは憎まずにはいられない
彼との会話すら録に出来ないなんて



「……んー、何もないなら俺の話聞いてくんない?」



助け舟を出されたことはとても気恥ずかしいが素直に頷く、ドカっと大きな木の根元に座り込むティーダの隣にスコールも腰を下ろした
風が少し強くなってきた



「明日はカオスと戦うんだよな」


「……あぁ、順当に行けばな」


「強いのかなぁ……まぁ、今のオレ達ならいい線行くと思うっすけど」



だって皆強いし
誇らしげに笑ってみせるティーダ、その皆の中に自分もいるのだろうか



「……で、もし、もしさ、カオスを……倒しちゃったりしたらさ、オレ達どうなるんだろ」


「……恐らくそれぞれの世界に戻れるんじゃないか?そうでないと、これまでの戦いが無駄になる」


「無駄に、なる……かぁ」



木々の葉が擦れ合う音が辺りを包み込む、木漏れ日は形を変えながらティーダを照らしていた
思わず見惚れていることに気づいた



「何、だ……?自分の世界に不安でもあるのか?」



言ってすぐに後悔する

ティーダは驚いたようにこちらを見つめてくる、踏み込んでは行けなかったかもしれない









「不安…………っていうか、何も無いんすよ」


「は?」




心地の良い風がふわっと通り過ぎていった





「オレ、明日死ぬんだってさ」
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