短編

□例えば僕が
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「なぁ、アンタの世界ってどんな所っすか?」



皆の世界のことが知りたいと言い出したのはティーダだった。いつもの彼らしからぬ何処かさみしそうな顔、どうした?と問えば別にと答える。コイツは無理にでも最後まで笑い通すのだろう。そういう奴だと思う。
一通り仲間達と話した後に俺のところに来た。別に仲がいいわけでもなく、挨拶程度の会話しかしたこともない。だから、そう言われた時に少し返答に困ってしまった。俺の世界はどんな世界だっただろうか。


「悪くは無い……所だった」

「何すかそれ」


分かりにくい、とティーダはムスッとする。そうは言われてもいきなり自分の世界の話など言葉にするのは難しいんだぞ。


「お前の世界はどうなんだ?」


お返しと言わんばかりに逆に質問してみた。するとティーダは困ったように笑う、失言だったか。


「んー……明るくて、楽しくて、怖くて、暗くて、夢や希望が溢れてる…………場所」


お前の方が分かりにくい。明るいのか暗いのかどっちかにしろ。
そう心の中でツッコんでいると、コテンと肩に奴の頭がもたれ掛かってきた。重い、退け。
へへへ、と力なく笑うコイツからは何か違和感を覚えて居心地が悪い、とりあえず面倒なのでそのままでいさせることにした。


「俺さぁ、二つも世界持ってんの。夢の世界と、現実の世界。すごくね?」

「それは誰でも持ってるだろう?」

「いや、違うんだって、何ていうかなぁ………俺は元々夢の世界の住人というか、皆の希望が溢れてる世界で生きてきて、ある日現実の世界に放り出された、っていうか」



何の話をしているんだ。勝手に話しているので左から右に聞き流すことにするが、やけに本人は真剣に話しているようだ。


「で、現実の世界に来たらすっげー可愛い女の子に会って、その子が世界のために命と引換に平和を掴もうとしてたわけよ。そんなの見過ごせないじゃん?だから………」



急に口籠もって俯いたティーダ、頭の重みが肩にのしかかってくる。いい加減にしろと力を入れて押し返してやるとまた変な顔をしていた。



「俺が代わりに消えたんだ」



かっけぇだろ?


何がカッコいいんだ、そんな顔でよく言えたもんだな。
というより、何故そんな話を俺にするんだ。俺よりお前といつもつるんでいるクラウドやセシル、フリオニールの方が上手く励ましてくれるだろう。多分俺はお前の欲しい言葉を言ってやれない。もやもやした思いが胸を渦巻く、これだからこういう奴は苦手なんだ。


もう、いい加減にしろ。



「…………消えたからなんだ、今此処にいるだろ、馬鹿が」



ぼそっと思ったことが口から出た。ティーダにも聞こえたようでグッと顔を上げて驚いたようにこっちを見ている。何を言ってるんだ俺は、励ますどころか軽く当たってるじゃないか。
自責の念に駆られていると、目の前の男は俺の言葉を復唱しているようだった。やめろ、俺もどうかと思ってるんだ。


「………ほんとだ、生きてんじゃん、俺」

「は?」

「スコール、すげぇ………、うん、俺ってば消えたのに生き返ったんすね!」



一体どうしたというのか、突然元気に……というか本来のコイツに戻った。本当によくわからない奴だ。


「ザナルカンドで生きて、スピラで消えて、ここでまた生きた!ってことは、また次の世界いけるかもしれないっす!」

「次の世界……」

「スコールの世界とかな!」


冗談じゃない、あの世界にこれ以上うるさい奴はいらない。だが、当のティーダは来る気満々のようだ。
そもそもどうやって来るんだ、その前にどうしてこんな話になった。


「"悪くは無い世界"……どーんな所っすかねぇ?」

「来るな」

「いやいや、俺は決めたら絶対やる男っす!」


ニコニコとさっきまでの塩らしさが欠片も無くなって名前に相応しい笑顔でこちらを見てくるティーダ。コイツならきっとほんとに世界なんて飛び越えるんだろうな。もし仮に俺の世界に来たとしたら、いや、来ないで欲しいが。


「………………なら、その時はカードゲームでも、教えてやる」

「お?何それ楽しいんすか?」


一つ一つ説明して、ティーダがあまりに食いつくから俺も話が盛り上がって、気づけば夜が更けていた。
また、こんな会話ができたらいい。





例えば僕が君の助けになれたなら

君はまた僕にくれるのだろうか?

擽ったいような、そんな気持ちを。
 

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