短編

□明日死ぬんだってさ
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「どういう……ことなんだ……?」



「明日死ぬ」とはカオスとの戦いで?いや、元の世界に戻ったらということか
どちらにせよ彼の表情を見れば本気で言っていることはわかった
聞けばティーダはらしからぬ笑みを浮かべる




「そのままの意味、オレはユメだから皆の夢を叶えたら消えちゃうんすよ」


「ユメ?」


「なんて言うかなー、正直オレもよくわかんねぇんだけど……」



果たせば夢は夢で無くなる
だから役目を終えて眠りにつく
この世界でも、自分の世界でも
みんなが幸せになるために消えなければならない


ふざけるのも大概にしろ、そういえば冗談だと言ってティーダは笑ってくれるだろうか
それが例え作り笑いだとしても馬鹿な自分は騙されて安心するのだろうか

けれど恐らくティーダが今話していることに目を瞑ってしまえば、彼はきっと一人で抱えたままにするのだろう
そんな哀しい思いをこの青年にさせてはならないと感じた



「……夢は、そう簡単に終わるものじゃない
例えそれに近いものを手に入れたとしてもそこで手放すようならそれは妥協だ、人は理想を捨てたら進めなくなるだろう?
だから、」



だから、お前が夢だというならば
お前がいなくなれば俺達は前に進めなくなる
だから、





「死ぬな」







サァァという葉擦れの音に飲み込まれた言葉は彼に届いたのだろうか





「……帰ろっか?」





尻についた土を払ってティーダは立ち上がった
スコールも後に続き、先程とは逆にティーダの後ろを一定の距離で歩いていく



「スコール」



不意に声を掛けられた
ティーダがどんな表情をしているのか、後ろ姿ではわからない



「スコールの夢に、俺は必要?」


「当たり前だ、お前だけ逃げるなんて許さない」


「はっ、誰が逃げるかっての」




すたすたとティーダの歩くスピードが早くなっていった
何となくムキになって後ろから隣へと場所を変える、それからまたティーダが前に出る、追いつく、前に出る……そんなことを繰り返していつの間にか拠点へ戻って来るうちにお互い笑いあっていた




当然のことながらティーダは仲間たちにこってり叱られた
ごめんごめんと謝る彼からは湖で見た時の儚さなど微塵も感じられない



(そうやってずっと笑っていればいい)



太陽の名を持つ彼にはやはり誰よりも暖かいあの笑顔が似合っている

ようやく説教から介抱されたティーダはスコールにだけ分かるように口を動かした


(あ、り、が、と、う、…………か)


夢はまだ終わらない
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