短編

□夢の海は優しく揺れる
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─あれからどのくらい経ったんだろうか、





親父との決着を終えて、ユウナ達と別れてから体感的には数年くらい
俺はといえば当然あの時消えてしまったのだけれど、祈り子たちによって俺だけの海を作ってもらってひたすら泳いだりブリッツしたりしてる
食べ物とかも不自由ないし生きてく分には困らないけれど、一つだけ物足りないことと言ったらこの世界に俺以外の生き物がいないということくらいで……
コレが結構辛いんスよ、小さい時からひとりが多かったから馴れてはいるけど、やっぱり、ひとりぼっちはさみしいっス
アルベド語でいいから話したい、もうこの際犬でも猫でもいい、とにかく自分以外の生き物がこんなに恋しくなるとは思わなかった
そんな事を何回も何回も頭の中でグルグルさせるのは初めてじゃないし、どうにかなるものでもない


でもその日は、いつもとは違う日常が突然俺の前で起きた


寝床としている船から数km先位の空を雲を切って何かが落ちて来るのが見える、よくよく目を凝らしてみるとどうやらそれはヒトのようだ
敵か味方かは分からないが急いで近づいてみる、久しぶりに全力で泳いだ気がした








─その世界に来たのは偶然だった、



アルティミシアとの最終決戦を終え、皆で帰る途中。帰るべき場所への道は自分たちの記憶だった、誰かと約束してその大事な場所に行かなければならないのに、場所も、その誰かも思い出せない、なす術もない俺は流されるままに時間の世界を彷徨っていた

様々な時間軸が交差する中で、一箇所だけ時間の動きがない空間を見つける
静かでとても優しく、少し物悲しいその海に惹かれて俺はその世界に踏み入れてみた、が
結果的には大海原に放り出されることになる
泳げない訳では無いが誰しも突然足のつかない水場に入ったら驚きもするだろう、必死でもがいて酸素を取り込もうとすると逆に海水を口に含んでしまう、このまま溺れ死ぬのかとさえ思った時に体がぐいと何かに引かれた

力のかかる方向を見てみると太陽の光を浴びてキラキラと輝く金の髪、その髪が眩しくて俺はグッと目を閉じた。
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