露の夢
□参話 瓦解
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次郎太刀の勧めでちゃっかり宴会になってしまった中に、弟たちを寝かしつけてきた一期はいた。
飲むとさらに笑い上戸になる次郎や、顔を赤くした歌仙、何杯呑んでも同じような顔をしている青江に囲まれ、一期も酒を呷っていた。
「このお酒はおいしいですな」
「でしょでしょ? さあもっと呑んで〜!」
言われるがままに、酒を注がれる。一期は杯に口をつけた。
「聞いてくださいよ〜、俺の前の主ってやつはさ〜、ヒック」
目の前にはもう酔い潰れたのか、長谷部が机に突っ伏している。飲み始めて、もうかなりの時間が経ったらしい。
「一期くん、顔赤いよ?」
つまみを持って来た光忠が、心配そうに一期の顔をのぞき込む。
「そんなことありませんよぉ、まだまだですってぇ」
ちょっと手元が震えるし、体はすこぶる熱く火照っているのだが。
光忠は眉尻を下げた。
「あーダメだこりゃ。……って伽羅ちゃん⁉」
「馴れ合うつもりはない。俺は独りで呑む」
「あーあそんなこと言っちゃって。そのペースだと、明日戦えなくなるよ?」
「知るか」
「もう……」
「長谷部踊って!」
「は! 主命とあらば!」
「君たちちょっと!」
酔っている長谷部は、声の主が次郎であることに気付いていない。それにもかかわらず公共の面前で脱ぎ始めた長谷部を、光忠は慌てて止めた。
「一期さーん! って、いつにも増して酒くさっ⁉」
そんな折、ふすまを開けて宴会場へと入ってきた獅子王が、一期の名を呼ぶ。杯の中身を飲み干して、一期は獅子王に顔を向けた。
「はへ、なんですかな?」
「うわ相当酔ってるなこの人……。主がお呼びだぜ!」
「ああ、そうですか。……ありがとうございます、今行きます」
主、と聞いて一期は杯を置いた。これでも、主を第一優先に考えなければいけない理性は残っていた。一期はのしかかる次郎を振り落とし立ち上がる。
「歩けるのか? 俺がおぶってやろうか?」
「大丈夫歩けます、ご心配には及びません」
言いつつふらふらと歩く一期の背中を、獅子王は見送った。
「大丈夫かな一期さん……。って石切丸! 青江さんもそれ以上呑ませないでくださいよ!」
「え〜? だってこれ、ただの水じゃないか」
「んなわけ……」
「はははは、はははははははは」
「石切丸ー!」
ただひたすら笑う石切丸から杯を奪わんと、獅子王は石切丸に飛び付いた。