露の夢

□参話 瓦解
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 廊下をよろよろと歩く一期。大広間以外の部屋は、もうみんな寝てしまったのかやけに静かだ。
 ようやくたどり着いた一期は、顔を赤くしながらも部屋に向かって声をかける。

「えへへ、お呼びでしょうか」

 若干舌足らずになる。なんだかふわふわしていて気持ちがいい。

「一期か。まあ入れ」
「はぁい」

 ふすまを開けて中に入ると、主は布団の上で鎮座していた。

「だいぶ呑まされたようだな」
「そんなことないですよぉ、まだまだですっ」

 よろめく体をなんとか支えて、一期は主の前に座る。

「なにか御用ですかな?」
「いや、特にはないんだが。近況を聞こうと思ってな」
「きんきょう、ですか」
「刀たちとはどうだ? 最近頑張っているようだしな。なにか褒美でも……」
「ん〜? いえぇ、そこまでしていただくわけには……」
「そうか?」

 主はにまと笑う。
 気になることは、大してない。弟たちはいい子だし、本丸の雰囲気も和気あいあいとしていて好きだ。無理な行軍もないから、かなり快適である。
 強いていうならば、今日見た清光の態度と、あと一つ。

「そうですねぇ。……気になるものといえば、加州殿のことですかねぇ」
「なに、清光が? どうかしたのか」
「んっ……なんでも、私が来るまでずっと貴殿の近侍をしていたと聞きましたぁ。私も強くなりましたので、そろそろ交代してもいいのではないかと……。そうでないと、加州殿がちょっと不憫です」

 主は押し黙る。まるで思案しているような顔つきだ。どうしたらいいものだろうかと、酒に溺れる頭の中で考えが巡る。
 けれどそんな心配は、全くの無用だった。

「そんなことはしないし、させない」
「へ?」

 ふと耳朶を打った言葉に、一期は弾かれたように顔を上げる。

「お前は、俺の近侍だ」
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