露の夢
□参話 瓦解
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気が付けば、主の顔が目の前にあった。穿つように見開かれたその目に、ぞくりとする。酔いを通り越して、嫌悪感があからさまに溢れ出た。一期は思わず体を反らす。
一期が気になっていたのは、主の目だった。
ここ最近の主は、執務がない時には一期のそばを訪れたり手合わせの様子を覗いたりしていたが、その時の眼差しがどうも変なのだ。ただ眺める分にしては、やけに長くしつこい。周りに他の刀が多くいる時はそうないが、人気のない時に、気が付いたら後ろにいたりする。
その眸が、どうにも、不気味だった。
なにかと目をかけられている分はいいのだが、それだけではないような気がしたのだ。それでも主の近侍である。主人を疑ってはならぬと理性で言い聞かせていたが、もう遅い。
「俺は、ずっとお前が欲しかったんだ……!」
体を反らした勢いで、そのまま押し倒される。服の下に手が入り込んできた。脇腹をなでられ、なにをされるのか嫌でも想像がつく。とっさに一期は頭を上げた。
「主、おやめください!」
「せめて近侍としてそばに置いておくことで気を紛らわせようとしていたのに……ええい、もう我慢ならん」
「あるじどの、ある……っ」
押しのけようとした腕は、頭の上で押さえつけられてしまった。酔が回った頭はぼーっとしていて、体も思うように動かない。くたりと脱力した体をよじってみるが、無駄な抵抗だった。一期は歯を食いしばる。
「こんなに酔って、顔を赤くして……。俺に襲われるのを待ってたんじゃないのか?」
「そんな、つもりでは……っ!」
顔をしかめる。主の荒い吐息に、一期はどうすれば脱却できるのか必死に考えていた。
けれど。
「あ……っ」
胸の突起に触れられた瞬間、思いがけず声が漏れる。反射的に手の甲を口元に当て声を抑えようとするが、頭上で押さえつけられているせいで無意味だった。
主は意味ありげに笑った。