露の夢
□伍話 穿つ緋の目
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それからの二ヶ月で、一期が見せる表情には悲しげな影がより深くなりつつある。毎晩覚え込まされる快楽と、弟たちや本丸のみんなに隠し事をしているという後ろめたさ。嘘がつけない質である一期は最初こそ、眠れないことや食が細くなっていくことをごまかすのに苦労したが、今ではもう平気だった。
反面、この頃物思いに沈むことが多くなっていた。
それでも、それで主の士気があがり本丸が活気づくのであれば、それは願ってもないことだった。
「いち兄、見てみてー!」
乱が、赤いリボンで結んだ髪を一期に見せる。橙色の髪と相まって、お世辞ではなく本気で素敵だと思った。
「とってもかわいいね。よく似合っているよ」
「えへへ」
心からの言葉を伝えてみれば、乱は満足そうに笑う。
この間、一期と一緒に万屋に買い物に行った時、手伝いをしてくれたことへの褒美だという。そういえば薬研も新しい医学書を買ってもらったと言っていた。さっきも熱心によく読んでいたから、ほどほどにするように言っておかなくては。
一期は膝に載せた白い虎の毛を櫛で梳きながら、そんなことを思う。虎は一期に毛を梳かれるのが好きなのか、うっとりとした表情で目を閉じている。順番待ちの虎はそばでじゃれあっており、その主人である五虎退は、一期に寄りかかってお昼寝をしていた。
この櫛も、主から賜ったものだ。
一期が頑なに誰にも言わず、従順にされるがまま体を開いているのが功を奏したのだろう。
主は、弟たちにはよくしてくれた。こうしてなにかと買い与えてくれるのも、弟たちにとっては嬉しいことである。自分の功績が称えられ、必要とされていると感じるのだ。焼けてしまったとはいえ、骨喰や鯰尾だって、新たな活路に自分を見出している。現世に舞い戻って活躍ができるというのは、ほとんどの刀剣にとって誇らしいことだ。
誰一人、不幸な思いなど、させてやるものか。
暗い一期の目が、淀んだ光を灯した。