短篇集

□わがまま
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 彼は二振り目の鶴丸国永だった。
 一振り目は戦場で見つかり、それからだいぶ遅れて二振り目が鍛刀された。小狐丸を狙っていたことへの副産物だったが、主は彼を刀解しなかった。
 その用途は単純明快。
 二振り目に、刀剣男士の夜伽の相手をさせるためだ。
 しかしこれまでに鶴丸国永に夜伽を命じさせたのは、一期一振ただ一人だけだった。
 元よりこの本丸の主は傾国の刀に熱を上げているようだし、鶴丸でなくても夜伽の相手は他にいる。鶴丸国永を支配しているのは、現に一期しかいない。
 彼は鶴丸に、異常な執着を見せていた。
 二振り目の鶴丸の存在意義を理解していても、鶴丸を他の男士に抱かせようとしたことはない。常に縛るかおもちゃを尻に入れるかして、拘束しているに等しい状況を作り出している。
 しかし一期がなぜ二振り目の鶴丸に執着しているのか。その理由を、二振り目はちゃんとわかっていた。

「一期が俺のことを好いているとは、驚きだよなぁ」

 離れから見える桜の木に登って、鶴丸はそんなことをぼやいた。
 どうやら一期は一振り目の鶴丸国永に、恋をしているらしい。
 決定的な言葉を、本人の口から聞いたわけではない。だがこうして木に登っていると、見えることはいろいろあるのだ。
 木の上からは、母屋の様子がよくわかる。今も縁側では、一期と鶴丸がなにかを話しているのが見えた。
 きっと、戦いに関する話なのだろう。あるいは弟関連の話か。
 自分が実際その場にいたことはないが、一振り目が藤四郎たちの中に交じって、遊びを教えているのをこれまでに何度か見ていた。
 そして、そんな一振り目の鶴丸を見つめる一期の視線が、妙に熱っぽいことも。
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