短篇集
□わがまま
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今だってそうだ。廊下でなにか二言三言話しているが、一期の方はどこか動きがぎこちない。しばらくするうちに話は切り上がったらしく、一振り目の鶴丸はそこから足早に立ち去る。
しかし一期はそこに残ったまま、一振り目の行方を視線で追いかけていた。やがて一期はなにか考えるようにしてうつむき、そこでようやく歩き出す。
これが、いつも自分をいたぶっては楽しむ男の日常だというのか。
「……分かりやすすぎるぞ、一期一振」
木に登って一部始終を見ていた二振り目は、呆れた声でそう呟いた。
一期は母屋にいる鶴丸の代わりに、二振り目の鶴丸に欲望をぶつけているにすぎない。
気晴らしや戦場で昂った気を放出させようと、離れにいる刀剣男士を面白がって回すのはよくあることだ。
しかし恋の更代として二振り目を抱くことは、珍しいように思えた。
鶴丸は顎に指を当て、息をつく。
「だが、それにしてもなぁ。そろそろ、俺を放置したりおもちゃを突っ込んだりするのは、やめて欲しいよな……」
二振り目の自分が性玩具だからと言って、いろいろと限界がある。どうにかならないかと考えた矢先に、鶴丸は妙案を思いついた。
一振り目と一期を、くっつけてしまえばいいのだ。
そうすれば、一期も鶴丸もお互い幸せではないか。
しかし、そうなるためには説得するしかあるまい。見る限り、一期は一振り目にまだ想いを伝えてはいないだろう。
今夜、一期が来るまでにどう説得させようかと鶴丸は考えた。