短篇集

□わがまま
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 湯浴みを済ませて部屋で待っていると、案の定一期がやって来た。
 布団を敷いてしおらしく待っていた鶴丸は、やれ退屈が凌げると言わんばかりに顔を上げる。一期が鶴丸の上に覆いかぶさろうとする前に、鶴丸はずいっと後ずさると距離を置いた。

「な、なあ一期! 君に話があるんだ!」

 逃げる鶴丸に手を伸ばそうとしていた一期は、ぴたりと動きを止める。

「……? なんですかな?」

 不思議そうな顔をする一期に、鶴丸は早速要件を突きつける。

「一期、君は俺のことが好きだろう」
「は」

 一期はそれだけを言って固まった。呆然とする一期に、鶴丸は慌てて言葉を繋ぐ。

「俺のことじゃなくて、一振り目の……。いつも、君が母屋で一緒にいる鶴丸のことだ。君は、彼が好きなんだろう?」
「どうしてそのようなことを知っていらっしゃるんですか」
「いや……実を言うとな、離れの庭にある桜の木から、母屋の様子がよく見えるんだ。それで、一期のことを見ていた」
「いつの間に……」

 一期はうつむく。しかしすぐに顔を上げた。

「なにが目的ですかな。弱みを握ろうと?」

 鶴丸はぶんぶんと首を振る。

「違うんだ! 俺は、一期がなんで告白しないのかって思ってだな……」

 一振り目と一期がくっつけば、一期に散々いたぶられることもない。
 本来の目的はそれだったが、言わずに鶴丸はそうごまかす。

「それで俺を抱いても、虚しいだけだろう。本当に好いている相手に伝えないままで……」
「……」
「お、俺は君の幸せを願ってだな……」
「彼が好いているのは、三日月殿ですぞ」
「……は」

 今度は鶴丸が固まる番だった。弱々しく自信のない声に、鶴丸は戸惑う。こんな一期の声は、初めて聞いた。
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