短篇集

□わがまま
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「離れに住まう貴方では、分からなかったでしょう。鶴丸殿は三日月殿に想いを寄せているのです。三日月殿も、鶴丸殿の想いに気付いている。お二方の気持ちは通い合っているのですよ。そこに、私が付け入る隙など……」
「で、でも、可能性はなくはないだろう」
「私は再刃された身です。三条の三日月殿には、美しさでも強さでも勝てはしない。その私が、見向きされると思いますかな」
「だから、告白しないのか……?」
「ええ」

 一期は自嘲するように笑う。それはさすがにまずかった。どうしようか鶴丸は考え、そして思いつく。

「三日月に勝てないなんてことはない! 君は綺麗だ!」
「え……?」

 一期は困惑したような声を零す。

「髪も……目も、素敵だ。体格だって悪くはない。君はいろいろと恵まれているだろう。確かに三日月は綺麗だが、君だって引けをとらないじゃあないか!」

 きょとんとしたような顔で見つめられて、鶴丸はだんだんと恥ずかしくなっていった。

「だからその……まだ機会はあるだろう? 同じ俺のことだ、君に告白されたら、気が変わるかもしれん!」

 自分で言ってて虚しくなる。手応えをまるで感じない。それにベタ褒めしたって、すぐに世辞だと分かるだろう。やはりこれではだめかと思い、鶴丸は眉を下げる。
 しかし突如、一期は吹き出した。

「同じ鶴丸殿から、まさかそう言われるとは……!」

 そう言って肩を震わせる彼は、たまらなく可笑しそうだった。
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