短篇集

□XYLITOL
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「ううん。俺があいつに殴られるから」

 僕の前に座り込んだ清光は、ゆっくりとスラックスを下ろしていく。薄い唇が割れるように開いて、真っ赤な舌がちろちろとのぞく。清光の吐息が性器にかかる。学校の校舎裏という日常空間が、それらをひどく扇情的にさせた。
 そうしてさっき男にしていたように、僕のを(くわ)えた。

「んっ……はぁ、おっきい……」

 清光はしゃぶりながら、そんな声を漏らす。だんだん硬くなっていくそれを嬉しそうに口に入れながら、清光は僕の性器を口だけで愛撫した。
 はっきり言って、清光のフェラは上手かった。
 他の人にも同じようにしてきたのだと、すぐに理解した。清光の舌遣いの上手さは、経験によるものだ。僕に見られた時、やけにあっさりしていたのは強がりなんかじゃない。清光にとってはあれが当たり前で、こうやって他の男子も虜にし、カモにしてきたのだろう。不思議と嫉妬はしなかった。清光の態度には腹立たしさを覚えたのに。

「……あ、」

 銜えてもらうのは初めてで、勝手がわからなかった僕は射精のタイミングを完全に見誤った。そんなに早く出すつもりはなかったのに、気が付けば溜まっていた快感が一気に押し流されていた。清光はほの暗い赤い目で見上げながら、僕のペニスから口を離す。

「いっぱい出たね」

 べぇ、と口を開いて、清光は舌にのった精液を見せつけた。ガムの人工的な甘さをいつも味わっている舌に、僕の快感が白くまとわりついている。キシリトールの清涼感がかすかに残る口内が、僕の精液で汚れている。

「百円でいいよ」

 白濁を飲み込んだ清光が提示したのは、ガムと同じような値段だった。僕は言われた通りに百円玉を出して、清光に渡した。

「五時間目、なんだっけ」
「……生物だよ」
「そう。サボろうかな」

 初めからなんでもなかったように、僕たちはその場に座り込んで話す。そのちぐはぐさに居心地悪いと思ったけど、なぜか、清光のそばを離れようとは思わなかった。
 清光は話の最中で、いつものように板ガムを食んだ。

「安定も食べる?」

 丁重に断る。今は、噛む気力がなかった。清光は残念そうな顔はしなかった。

「……ガムを噛んでいると、キスする時に、汚いって思われない」

 ふと清光が零したのは、僕がずっと気になって悩んでいた答えだった。目を伏せてそう言った清光の横顔はすごく綺麗で、忘れることができそうにないなと自覚させられた。

「それで、いつもガムを噛んでいたの」
「うん。外だと、うがいも歯磨きもなかなかできないから。誰だって、ザーメン臭い口にキスしたくはないでしょ」

 清光は笑う。僕は頷くことができなかった。そしてそれだけ、さっきのは日常茶飯事なんだと改めて認識する。

「担任のもしゃぶったことあるんだぜ」

 得意げに言う清光の笑顔が、いやに薄ら寒く思えた。
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