短篇集

□桎梏
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 一期一振は縁側に座って山を見ていた。
 同じ国の審神者たちが集まる旅館。主催をつとめる主とは一緒に手伝いをしていたが、さきほどようやく落ち着いた。主は別の部屋で他の審神者と話をしているらしく、八畳ある部屋には一期しかいない。本丸にいる時とはまた違う静けさを耳に、一期は一人で涼風を浴びていた。
 本丸の中にいても四季折々の変化を楽しめるとはいえ、鮮やかな緋や黄色が視界に広がる様は美しい。人間はこうして心を動かされるのだと、一期は初めて理解する。鉄に人の力を加えて作られた刀が壮大な自然を見て感動するなど、滑稽だ。しかし人の形を得て目耳鼻を備えているのならば、そんな想いをこの身に宿すのも不自然ではない。弟たちが見たら興奮するだろう。
 そんなことを考えながら、一期は髪をかきあげた。
 ──夜。
 湯浴みを済ませた一期はなぜか大広間へと呼ばれた。旅館備え付けの浴衣を着て、笑い声が聞こえてくる広間へと足を運ぶ。宴会でもしているらしい。酌をするために呼ばれたのだろうかと軽く考えながら、一期は部屋のふすまを開けた。
 部屋には審神者たちが集まっていた。今回懇親会に参加したのは男性の審神者ばかりで、女性はいないらしい。霊力の差からか、女性が多い審神者業界の中では男性はそれなりに珍しいのだ。数少ない男性同士で集まることはなかなかにないから、きっとつもる話もあるに違いない。
 しかしそれとはまた違うところに目的があることを、一期は気付かないでいた。
 月明かりが障子に透けて降り注ぐ。それでも照明を落とした部屋はほんのりと暗く不気味だ。中央には布団が敷いてある。
 酒を酌み交わしていた審神者たちの視線が自身に降り注ぐのを感じながら、一期は主の元へと寄った。

「あの、主殿……」

 なにか仕事でも言いつけるのだろうと身構えていた矢先、主は一期を招き寄せる。
「やっと来たか。みんなお前のことを待っていたぞ。まあひとまず飲め」
 そばに座らされ、酒を注がれる。酒はあまり得意ではないが、飲まないのも失礼だろう。断ることもできずに、一期は御猪口の中を呷った。飲み慣れていないせいか、変な苦味がする。美味いと感じることができなくて、一期はなんと言おうか感想に迷う。
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