露の夢

□壱話 一期一振、顕現
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 西暦2205年、時間を遡り過去へと干渉することによって歴史を改変しようとする者たちが現れた。
 時の政府はこれに対抗するため、物に宿る心を目覚めさせて引き出すことができる能力者「審神者(さにわ)」に歴史の守護を託した。
 審神者たちは刀剣・槍・薙刀などの武具から想いを引き出し、「刀剣男士」と呼ばれる戦士たちを生み出す。そして過去の世界において、歴史を守るための戦いが始まる。




 *****


 水無月の頃。紫陽花に落ちた雨雫が、ぽたぽたとしたたりながら陽の光を受けて宝石のように光る。
 美しい雨上がりの空の下、とある国のとある本丸にて。
 主が鍛刀場を訪れたのは、昼過ぎのことであった。
 朝に製造を始めた刀が完成したことを確認すると、主はすぐに鍛刀場へと向かったのだ。鍛刀にあまり力を入れてこなかっただけに、彼が三時間二十分という時間に出会ったのは初めてだった。

「さて、鍛刀はどのようかな」

 中の様子が気になるのか、主はたどりつくなり少し急いた手つきで戸を開ける。
 その瞬間、桜の花びらがあたり一面に舞った。
 はらはらと散りゆく桜吹雪にまぎれて、浅葱色の髪が見える。少し横に跳ねた前髪が微風にゆるりと揺れた。花が咲くように開いた目は、朝日のような金色をしている。その目がゆっくりと主の姿をとらえると、あらわれた彼は唇を開いた。

「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟たちですな」

 主は固まっていた。表情をなくし、ただ一期一振のことを凝視している。しばらく主がなにも言わないでいると、ふと一期の顔が曇った。

「あの……もしかして私では頼りなかったでしょうか……」

 呆れているのだろうか。自分は二振り目で、もしかして他の太刀が欲しかったのではないか。そう不安に思った矢先、主は息を吹き返したように笑った。

「はっはっは、いやまさか。演練相手とはたまにまみえるし、藤四郎たちからは話には聞き及んでいたが。いや、実際にあらわれるとは思わなんだ。君のような素晴らしい太刀が来るとは。よう来たな、一期」

 一期は主の目をまっすぐに見つめる。瞳から嬉しさが見て取れて、こちらの頬も自然と緩んでしまいそうになった。押し殺して、一期はまた頭を下げながら口にした。

「では、初めまして。貴殿が我が主ですな? よろしくお願い申し上げる」
「うむ。では早速だが、本丸を案内しよう。君の弟たちにも会わせたい。ついてきなさい」
「は」

 歩き始めた主のあとに、一期が続く。
 主に喜んでもらえたことに嬉しさを感じながらも、まだ刀として振るわれ成果を見出していないことに気付き、一期は慌てて気を引き締めた。
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