露の夢

□弐話 つかの間の
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 夜になり、弟たちに連れられて湯浴みをした。そのあと、本丸にいるみんなで夕餉を囲む。
 若干一期の歓迎会のような雰囲気になっていたが、それでも弟たちに囲まれて食事ができるというのが嬉しかった。
 箸の扱いに慣れず、食べるのになかなか苦労はしたが、みんな顕現したての頃はそうだったと笑っていた。光忠は張り切って作り過ぎたと言っていたが、食べ盛りの短刀や打刀の様子を見るに余る様子は見られない。競うようにおかわりする弟たちは可愛かった。
 歓迎会にかこつけて酒を持ってきた次郎太刀に煽られて、やがて歓迎会は宴会へと移っていった。一期も酒をと勧められたが、あまり得意だとは思えないので遠慮した。
 短刀たちや酒を飲まない連中は、それぞれの部屋へと戻っていく。同じように大広間から退散した一期は、粟田口の部屋へと弟たちに率いられて入った。

「いち兄もここで寝ればいいのに」

 櫛で髪をとかしていた乱がふとそう言ったのを皮切りに、他の短刀たちもそうだそうだと口々に言う。
 しかし人数からすれば、一期が布団を敷く余裕はない。なにより自分は、磨り上げられたとはいえ体は大きいのだ。今でも部屋の端から端まで、布団がぎゅうぎゅうに敷き詰められている。

「さて、困りましたなあ」
「主様に聞いてみるのはどうでしょう……。もしかしたら、今より大きいお部屋にしてもらえるかも……」
「五虎退、それもそれで迷惑だろう。全員分の武具や布団を別の部屋に運ぶのか? ほら、いち兄が困ってるじゃないか」
「あうう、すみません……」
「いいんだよ。五虎退は優しいね」
「う、うぅ」

 薬研の言葉で涙目になってしまった五虎退を撫でる。
 が、やはりどこで寝ればいいのか皆目検討もつかない。収容人数に合わせて主が決めると言っていたから、やはりひとまずは主に聞いた方がいいのだろう。そう決めて、一期はつと立ち上がろうとした。
 その時だった。

「一期殿ー!」

 甲高い声に、一期は振り返る。ふすまを開けて立っていた鳴狐に、一期は「なんですかな?」とたずねた。

「主様がお呼びですぞ!」

 主がいるであろう方角を指差す鳴狐。部屋割りのことだろうと推測する。そのまま、一期はふすまへと近付いた。

「わざわざお呼び出しありがとうございます、叔父上。ちょっと、主のところに行ってくるよ」
「はーい!」

 一期は弟の見送りを受けつつ、部屋を出た。
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