露の夢
□参話 瓦解
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それから、二週間ほどが経った。
一期が最期の敵を切り伏せると、近代の技術だという電子板に戦闘結果が表示される。一番多く敵を倒したのは一期だった。
「一期、見事だったな」
合戦場にて、指揮を執っていた主がそう言う。
「お誉め頂きありがとうございます」
次の瞬間、一期の周りにひときわ派手な桜吹雪が舞った。なんだろうと思い身構えるが、違う。付喪神としての力が、ぶわりと外へ流れ出た。これは自身の力だ。周りのみんなも、それに気付いていた。
どうやら、自分の能力値があがったらしい。
「強くなるごとに、昔とは違う自分になる気がするな。……いえ、良いことなんだろうが」
そう独り言をこぼしたが、そばにいた次郎には聞こえていたようだ。
「良いことに決まってるじゃない。おめでとう」
次郎太刀はそう言って妖艶に微笑む。
「もう特が付いたのか」
見ていた主は嬉しそうだ。その笑顔に、一期は素直に微笑んだ。
「ありがとうございます。もっと精進いたします」
他の刀より未熟な分、切りつけられた時に刀装が壊れて重傷になる時もあった。それで他の刀たちに迷惑をかけたことも。
それでも、強くなっていくのは気持ちよかった。練度がだいたい同じになるよう組まれた、他のいろんな刀たちと出陣するのも楽しい。弟たちと出陣するのは尚更だ。
そうだ、帰ったら弟たちと手合わせしよう。
そう思い、一期は隊のみんなへと振り向いた。
「怨敵も倒したことですし、帰城いたしますか」
「おう! 帰ったあとの一杯が、最高なのよね〜。一期もどうだい? たまには呑みなよ、今日はアタシが祝ってあげる!」
次郎に擦り寄られて、一期は後ずさる。
「いえ、私は、あまり得意ではないので……」
なにより酒を飲んでいるところを弟たちに見られては、教育に良くないではないか。
それでもぐいぐいと寄ってくる次郎を牽制したのは、次郎よりも大きな男だった。真っ直ぐな黒髪を後頭部で一つに結った太郎太刀は、次郎の襟を掴み一期から引き剥がす。
「次郎、一期殿が嫌がっています」
「ぶー」
頬を膨らましてすねる次郎。
少しかわいそうなことをしたかもしれない。一期は反省した。
まあ、たまに呑むくらい、悪くはないだろう。
一期はすぐにそう思い直す。そうして、改めて次郎へと向き直った。
「ま、今宵くらいはお付き合いしましょう」
「やったー!」
「一杯だけですよ?」
しかし次郎は構わず、望月に乗ったまま城へとすっ飛んでいく。一体、人の話を聞いているのかいないのか。
一期と太郎はそんな次郎に呆れつつ、残りの隊員を率いて次郎を追いかけた。