露の夢

□参話 瓦解
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 主はことさら、嬉しそうに笑う。

「さすが俺の近侍だ。なかなかにさといな」
「うっ……あ……」

 その褒め言葉も、今となってはただの楔に過ぎない。

「ならばどうすればいいのか、知ってるだろう? 言ってみろ」

 違う。
 これは、将来を誓った二人が交わす行為だ。
 こんな歪で曲がった契を、一期は知らない。
 付喪神とて子をなすことはあるが、性行為は伴わない。ましてや人間と付喪神の間に子ができるはずがない。
 もっと言うと、男同士だ。
 しかしその時、弟たちの顔が脳裏によぎった。無垢で純真な彼らを、自らの失態で穢すわけにはいかない。大丈夫、少しの間、耐えるだけだ。
 言わなければ。言わなければ。
 一期は目をぎゅっと閉じて、切れ切れに言葉を吐いた。

「あっ、どう、ぞ、主の、お好きなように……いっ!」

 終わるか終わらないかのうちに、主が腰を動かしはじめる。ほぐされることなく挿入されたせいで、窄まりはきついままだ。一期は逃れようのない痛みに悶える。対する主は獣のように、がつがつと一期の奥を穿った。

「あ、がッ……ぐ、あぁ、ア!」

 内臓を押し上げられる感触に、一期は悲鳴じみた声を上げることしかできない。顔を蒼白にした一期の目から涙が散る。畳に裸の背中が擦れて痛いが、体に打ち込まれた痛みはその比ではない。

「ああっ、一期、いくぞ!」
「いやぁ、あ、あぁ!」

 最奥を穿たれたと同時に、主の子種が一期の中にたっぷりと放たれた。
 熱を持った精を叩きつけられ、一期の体が震える。主は最後まで熱を注ごうと、腰を小刻みに揺さぶった。そのうちに満足したのか、散々体内を暴いた凶器が、惜しむようにずるりと抜けていく。

「あ……あぁ、っ」

 一期は肩で息をしながら目を閉じ、終わった凌辱から逃げるように意識を手放した。
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