露の夢

□肆話 再生
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 雀の鳴き声に、一期は目を覚ました。
 起き上がると、そこは主の部屋ではなかった。
 見えていた景色の変化に不思議に思いつつ、敷かれた布団から体を起こす。棚の上には包帯や薬の箱が置いてあった。部屋の隅には、木炭やら玉鋼などの資材が見える。
 どうやらここは手入れ部屋らしい。負傷者がいなかったため、ここにいる刀は一期だけのようだ。無口な手入れ師たちは、一期が頭を持ち上げたのを見てもなんの反応も示さない。部屋の隅、資材のそばで同じように鎮座し、次に手入れされる刀を待っている。普段からこういう態度であるだけに、さすがとしか言いようがなかった。
 起き上がろうとして、一期は昨晩の悪夢を思い出す。

「う……っ」

 吐き気がして、たまらず一期は手入れ部屋から飛び出した。そうして手近な厠に駆け込むなり、便器に顔を突っ込む。戸を閉める手間も惜しんで、胃の中のものをぶちまけた。思ったより中身は出ず、透明な胃液が糸を引く。吐き出したところですっきりするわけでもなかった。
 気が済むまで胃の中のものを散らし厠から出たところで、一期はふと気付く。
 思いのほか、体は平気だった。あれだけ乱暴にされて無事では済まないと思ったが、手入れを施しただけのことはある。節々の痛みや疲労はすっかり回復していた。幸い二日酔いということもない。
 けれどやはり、あの生々しい感触は嫌でも記憶に残っていた。
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