露の夢
□漆話 罠
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午前中、一期は縁側に腰掛けて弟たちが遊ぶのを見ていた。主は執務室にいて書類を片付けているから、今だけは自由でいられた。
走り回る弟たちを視界に、一期は目を細める。何者にも穢されない安寧に、一期は戦場で己が振るわれるのと同じくらい、幸せだと思った。
心を満たす温かさにふっと微笑んでいると、ふと廊下の方から足音が聞こえた。
「一期」
その声にぎょっとする。見ると、主がいた。執務室から出てきたのだろう。若干草臥れたようすの主は、一期の名を呼ぶとそのまま隣に座った。
「主……」
ぴったりと密着する熱に、一期は昨日のことを思い出す。気まずさに目をそらし、無意識に襟に手をやった。
「そう怯えんでもいい。愛し合っているのだろう?」
一期にしか聞こえない声で、主はそう言った。
押し倒して、無理やり体を暴いて、それで恋人気取り、なのか。
それはそれで都合がいいが、未だにそれが真の答えなのかは測りかねる。
一期が悶々した表情で唇を噛んでいると、主の姿に気付いたのか、弟たちが駆け寄って来るのが見えた。
「主さま!」
「いちにー!」
来るな、と思ったのも一瞬で、弟たちは嬉しそうに主に抱き着いてくる。隣にいる一期の元にも、信濃が飛び込んできた。
「あるじさま、おしごとはおわったんですか?」
一本歯の下駄で元気に飛び跳ねながら、今剣がそう尋ねる。膝に秋田を載せた主は、にこにこと笑いながら頷いた。
「まあな。書類が片付いたから、たまにはお前たちが遊んでいるのを見たいと思ってな」
秋田の桃色の髪を撫でながら、主はそう言った。
「あっ、ずるーい! ボクも主に抱っこしてもらう!」
乱は不服そうにしている。
「ほらほら、順番ですよ。私の膝に来てもいいですから、主だけに負担を掛けるのもやめなさいね」
そう優しく言い聞かせながらも、主が短刀たちに妙なことを言わないか見張る。けれど相変わらず、主は子宝に恵まれた父親のような顔でにこにこと笑うだけだ。
……思い過ごしか。
短刀たちの中に、厚と五虎退の姿を見つける。少し離れたところで様子を伺っているようだ。昨日のこともあり、ああは言ったものの多少は警戒しているのだろう。
「じゃあ、ボクはいち兄に抱っこしてもらうー!」
「はいはい」
信濃の隣に乱を載せながら、一期はどうすればいいか考えた。