露の夢
□拾弐話 愛し子
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数日経っても、一期が姿を現すことはない。
粟田口の弟たちは、兄のいない日々をなんでもないように過ごしていた。
しかし時折、兄弟のあいだに妙な間が空くことがある。それは無意識に「いち兄」と呼ぼうとして途中で気付いた時だったり、粟田口が全員部屋に集まった時に、一人だけ周りを見渡していたりした時に生じた。
五虎退や厚は最初こそ、主に言われたことを信じたからか平気な風だった。が、徐々に兄弟たちのあいだに広がる違和感を察したらしい。それに馴染むようにして、五虎退も厚も口数を減らしていった。
誰もがもやもやしたものを抱えたまま、しかし誰もなにもなにも言わず。しばらく、そんな日ばかりが続いていた。
だがある夕餉の時、ふと鯰尾が口を開いた。
「やっぱり、おかしいよ」
食事に手を付ける前だった。
皆が集まった広間はそれなりに騒がしかったが、鯰尾の通る声は粟田口の弟にも聞こえたのだろう。弟たちはぴたりと動きを止めた。そしてそれを見ていた周りの刀たちも、ふと静かになる。端から生まれた沈黙の連鎖は波紋のように広がり、やがて広間はしんと静まり返った。
鯰尾はそれに気付いて、それからつと口を割った。
「なんで、いち兄が折檻なんてされてるんだろう……」
「長谷部を斬ったからじゃないのか」
そう答えたのは同田貫だった。鯰尾はばっと顔を上げる。
「でも、いち兄がそうする理由がわからない」
「私怨とかじゃねェのか」
「どうして? 私怨にしろ、長谷部さんとなにかあったの? それこそ、斬るほどのことが?」
「だから主がそばに置いて閉じ込めてんだろうが。理由を聞くためでもあるんだろ」
「それ、主は危険じゃないの。俺たちにとって危険なら、主はもっと危険じゃ」
「いや……その心配はないよ、鯰尾くん」
鯰尾の言葉を遮ったのは、石切丸だった。白熱しかけた議論の中に割り込まれた意見に、全員の注目が石切丸に集まる。石切丸はうろたえることなく、毅然と声を紡ぐ。