短篇集
□わがまま
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感覚だけが研ぎ澄まされて、体は与えられる快楽に素直になる。
なにも見えず、なにも聞こえない。
「ふっ! うぁ、あっ、あぁ……っ!」
こだまするのは、己の艶めかしい声だけだ。
暗い部屋に裸で転がされ、縛られたまま鶴丸国永は喘いでいた。目隠しをされ、尻の穴には張形の持ち手が突き出ていた。さらにその奥には、小型のローターまでもを押し込まれている。ブブブブ……と細やかに振動するそれは鶴丸の中で動くのか、鶴丸は時折、鋭い声を上げた。
妙な薬を飲まされ、それ以来体が熱く火照る。もっと強い快感が欲しい。それでもわずかに残ったひと欠片の理性は、おもちゃなどではなく雄のそれが欲しいという欲望を、必死で押し込めていた。
快楽を解放する術を与えられないまま、放置されてからもう数時間が経つ。
「んっ……あぁ、くっ! はぁ、あっ……」
体は今すぐイきたいと訴えてくる。尿意のような快感が、ぞわぞわと腰からせり上がってくる。しかしいつまで経っても、その熱が解放されることはない。
鶴丸の性器の根本を、鮮やかな赤い紐がきつく縛っている。それが鶴丸が射精するのを禁じていたのだ。
腕も縛られているせいで、解くことはおろか触れることすらできない。勃ちあがって腹につくそれをどうすることもなく、鶴丸はひたすら声を上げていた。
「こんばんは、鶴丸殿。調子はいかがですかな」
座敷のふすまが開いて、声がした。音に驚いて、鶴丸はびくりと体を震わせる。近付いてくる足音から逃げることもできずに、鶴丸は身をよじった。
「おや。ずいぶん、可愛いことになってらっしゃる」
「ひゃんっ」
目隠しを外そうと髪に触れてきた手にすら、感じてしまう。しばらくすると視界が開けて、一人の青年が目に入った。
浅葱色の髪に、朝陽色の瞳が慈しむように細められる。口元は意地悪く、あるいは楽しむかのように曲げられていた。軍服を基にした洋装からは、血の臭いがした。出陣から帰ってきたばかりなのだろう。
青年の名は一期一振。
鶴丸に薬を飲ませ、縛り上げ、性具と張形を突っ込み、挙句の果てに数時間放置していた張本人だった。