短篇集
□桎梏
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神無月の頃。涼風吹く庭では舞い落ちた紅い葉を、歌仙兼定がほうきで集めている。
秋も深まり、冬の足音が少しずつ聞こえてくる、とある国のとある本丸。
「あれ? あるじさまは?」
たたたっと廊下を駆けていた今剣は、ふと立ち止まるなりそうこぼした。広間で一人マニキュアを塗っていた加州清光は「こら、廊下は走らない」と忠告しながら今剣の話に乗る。
「主? 主は昨日から懇親会でいないよ」
「え、こんしんかい?」
今剣は無邪気に首を傾げる。
「他の本丸の審神者と集まって、検非違使や歴史修正主義者の動向なんかを情報交換するんだ。二泊三日いなくなるから、そのあいだのことは各自で任せるって説明したでしょ」
「おー、そうでしたそうでした!」
思い出したのかぽんと手を打った今剣に、ふぅ、と清光が息をつく。
「懇親会は半年に一回あって、前は俺が同行したんだよ。政府の管理する旅館に泊まって会談するんだけど、あそこは絶景だったな」
「えーっ、それならぼくもつれていってほしかったです!」
「俺だってまた行きたかったよ。でもまぁ、今剣は酒が飲めないから連れて行けないんじゃない? 情報交換っていってもあまり大したものじゃないし、どれぐらい敵を倒したとか自本丸には珍しい刀がいるとか、自慢話大会ばかりだから。多分今剣にはつまらないよ」
なんだ、と今剣は唇を尖らす。わかりやすく頬を膨らませた今剣に、清光は薄く笑った。
「それで、今回は俺たちの主が主催をつとめることになったんだ」
そうなんですか、と今剣は納得したような声を漏らす。しかし不意に、今剣はなにかに気付いたように声をあげた。
「あれ? それならば、だれがあるじさまについていったんですか? きんじは?」
清光はそれを聞いてにっと笑う。唇の隙間から八重歯がのぞいた。
「もちろん、一期一振だよ」