短篇集

□誰よりも
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「兼さん、布団はこの向きであってますか?」

 そう言って和泉守に目配せしたのは、相棒の脇差、堀川国広であった。

「ああ、いいんじゃねーか? 寝られればなんでもいいだろ」

 旅館備え付けの浴衣を着て、タオルで髪を乾かしていた和泉守は、一瞥してからそう答える。二人とも風呂から出たばかりだった。和泉守が髪を拭いているあいだに、堀川が布団をあつらえていたのだ。
 そんな和泉守に、布団の準備が終わった堀川は「ですね」と笑って返す。
 二人は本丸ではなく、現世の旅館に泊まりに来ていた。
 目的は遠征でも合宿でもなんでもない。ただの観光と、刀剣男士たちの休息のためにと主が三泊四日で画策したものだ。
 もちろん、この旅館に泊まりに来ているのは二人だけではない。本丸にいる刀剣男士は全員、出陣も内番も掃除も家事も割り当てられることなくここに来ている。
 おそらく、いつ折れるかもしれない戦いの中で、せめて人の身を持った喜びを知って欲しいと願う主の意向なのだろう。
 もっとも、折れることなく泰平な世になれば、それは刀剣男士としての本望であるのだが。

「しかしそれにしても、四人部屋でこの大きさって、ずいぶん広いんですねこの旅館!」

 堀川と和泉守の他に、この和室には清光と安定が同室で当てられている。持ち主が同じ新撰組ということで四人仲良くまとめられたのだ。持ち主関連なら長曽祢も一緒だが、彼は虎徹兄弟と部屋を共にしていた。

「そうだな。粟田口の部屋割りがずっと長いこと決まらなかったけど、あいつら広間の一部屋で足りたんじゃないのか?」
「短刀たち、みんな『いち兄と一緒に寝るー!』って騒いでましたもんね」
「まーったくだ。旅館に泊まりに来るのなんて、なにぶんみんな初めてだからな。そういえば枕が変わると眠れないやつがいるって主は言ってたが、沖田さんとこのあいつらは大丈夫なのか? 寝れないって、清光のやつがぶーぶー文句言いそうだな。俺は多分平気だろうが」
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