短篇集

□誰よりも
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「確かに言いそうですね。でも、案外そういうのは安定さんの方が過敏らしいですよ」
「へー、意外だな。そういう国広は?」
「あ、僕ですか? 僕は兼さんがいるところだったら、どこでも寝れますよ!」
「そこも俺基準なのかよっ!」

 驚きと呆れの混ざった声で、和泉守は堀川に言う。噂をすればなんとやら、その時部屋のふすまが開いて、赤と青の二人が見えた。

「ただいまー」
「あっ、おかえりなさい! 二人とも、どこに行ってらしたんですか?」

 和泉守と同じ浴衣を着た、清光と安定が入ってくる。堀川は二人に微笑みかけた。

「広間にいたみんなと百人一首をやってきたんだ。詠みは歌仙さんで、僕と清光はあんまり歌には詳しくないけど、見ていただけでもすごく面白かったよ」
「そうそう、石切丸が珍しく速かったの。あの長谷部に二枚差で勝ってた」
「前田くんと今剣くんの戦いもすごかったよね! そのあとは坊主めくりして、僕たちも遊んだんだ」

 安定は楽しそうに言って聞かせる。

「そうだったんですか。それは楽しそうでしたね」
「兼さんと堀川も誘えばよかったね」

 清光は少し残念そうだった。しかし堀川はふるふると首を振り、和泉守に目を向ける。

「いえ! 僕は兼さんと一緒の方が楽しいですし」
「どうせ俺も歌はわからねぇしな。というか、あの場にいなくてむしろよかったぜ。二代目に『兼定の刀とあろうものなら、歌も嗜むべきだろうこの無骨者!』って、分厚い歌集を渡されて勉強したくはないからな」

 本丸最年少である刀の言葉に、きっとびしばしと教鞭を執る歌仙の姿が想像できたのだろう。三人は苦笑するばかりだった。
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