短篇集

□XYLITOL
2ページ/5ページ



 本当の答えを知ったのは、清光と言葉を交わして数ヶ月が経った頃だった。
 昼休みに校舎裏に清光を探しに来た時、清光は大柄な男子の股間に頭を埋めていた。
 相手の男子はスラックスをくるぶしまで下ろして、そこに下着も混ざり込んでいた。ほとんど露出した状態の下半身に、しゃがみこんだ清光の顔が密着している。なにをしているのか、年頃の男子ならすぐにわかった。
 僕が息を呑むと、口淫をしていた清光の赤い目が不意に僕を捉える。次いで下半身を露出していた彼が僕に気が付いた。クラスメイトではないから、名前がわからない。それでも彼は僕を見て「やべっ」と声に出すと、それまで懸命に奉仕していた清光を突き飛ばした。慌てて下着を履き直し、スラックスのベルトに手をかけながら走っていく。
 僕の横を通り過ぎた男子の顔をよく見ることもできず、僕の視線は、ただ清光だけに注がれていた。

「……お金、もらい損ねちゃった」

 僕を見て開口一番に放たれたのは、そんな言葉だった。突き飛ばされた体を起こし、濡れた口の端をシャツの袖でぐいと拭って、つり気味の瞳に笑みを浮かべる。僕は立ち尽くしたまま、「なに、今の」としか尋ねられなかった。

「ただのバイト」

 いつもガムを噛んでいるのが、珍しく空っぽの口であっけらかんとそう言う。
 冗談めいた口調なのに、きっと本当なんだと思ってしまった。

「お金もらい損ねたって……いくらなの」
「あ、やる? いいよ、安定なら友達価格にしてあげる」

 興味本位で尋ねたはずが、てっきりやりたいのだと思われたらしい。否定しようとしたけど、なんだかすごく腹立っていた。なにに? ……わからない。僕は清光の彼氏でもないのに。
 清光は笑って言う。

「その代わり、黙ってて」
「みんなにバレるから?」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ