短篇集
□依存性、あるいは。
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「ネットルームのペアフラットシート、喫煙で」
「お時間はどうされますか?」
「えっと……」
「五時間」
隣にいたおじさんが俺の言葉を引き取る。口を噤んでうつむいた俺とは対照に、ネットカフェの受付嬢は「かしこまりました」と笑って、おじさんの差し出した会員証を読み取った。
「行こうか」
カードキーと伝票を受け取ったおじさんが、制服姿の俺の腰に手を回す。引き寄せられるように歩いた。
密室で二人なんて、やることは決まっている。それでも店員は俺たちを引き留めようとはしなかった。黙認されているのだろうか。それとも俺たち二人が、本当にジュースを飲みながら漫画を読むだけだと思っているとか? ここでもし店員に咎められたら、これから俺たちがやろうとしていることもやらなくて済むのかな。
まあ、どうでもいいか。今は、このおじさんが俺の飼い主だ。
数冊の漫画を取り、ドリンクバーからコーラを選ぶ。ジンジャーエールと合わせてそれらを手にした俺は、おじさんの後ろをちょこちょこと歩いた。
「さあ」
指定された部屋のドアノブにカードキーをかざして、おじさんがドアを開けてくれる。
「……どもッス」
首を軽く振って礼を言った俺は、そろそろと部屋に入った。別に初めてのことじゃないのに、この瞬間はいつも胸がどきどきした。
カチャン。背後でオートロックのドアが閉まる。
「……んっ」
パソコンのキーボードとモニターを装備したテーブルにドリンクと漫画を置いたとたん、振り向きざまにおじさんにキスされた。いきなりかよ。心のなかで呟く。ひげの剃りあとが顎に当たって痛い。だけど俺はなにも言えずに、おじさんのされるがまま唇への愛撫を受け入れた。