短編集

□赤司くんとチョコ
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「義理……?」

「ああお前あれか、本命チョコしか貰ったことねーから義理知らねぇ奴か」

 きょとんとしていると千尋が義理はなー、と話し始める。

「まぁかいつまんで言えばラブじゃなくてライクってことだな」

「……それはつまり」

「人として好きかもしれないが、男としてはまったく興味がな」
「それ以上言うな」

 そんなまさか、チョコレートの種類が分けてあるなんて思いもよらなかった。じゃあ彼女がくれたのは、千尋の言う通り。

「嘘だろ……」
「ガチへこみじゃねぇか」

 彼女も同じ思いだったと浮かれていた自分を宇宙の彼方に消し去りたい。地獄の業火に焼きたい。とりあえず一発殴りたい。

「てか、お前ぐらいモテる奴なら女一人落とすの訳ないだろ」

「簡単に言わないでくれ。彼女の前だと上手く話せなくなるんだ」

「女子か。……まあ、ちょいっと迫ってみろよ。釣り橋効果だっけ? そゆのも効くかもしれないし」

「もう今までに二、三回やってみた」
「やったんかい」

「天然過ぎて細かい言い回しの言葉責めとか効かないし触ったぐらいじゃ顔も赤くならない」

「まあ……お前相手ならそりゃ異常だな」

 眉を下げながらチョコレートを貪っていると、千尋が何か見付けたように包装に手を伸ばした。

「触るな」

「いやいや、なんかついてるぞ」

「……え?」

 確かによく見れば、包装になにか引っ掛かっている。ひっくり返してみると、

「…………好きです、って書いてあるな」

「……そうだな」

 一拍、二拍、三拍置いて、僕はえっ!? と大声を出した。

「ち、千尋、すすす好きて、書いてあ、」

「落ち着け。良かったじゃねえか、思いは通じてたみたいだぞ」

「あぁ………………ん?」

 チョコレートの入っていた袋の底に、また別の紙切れがあった。千尋が横からひったくり、読み上げる。

「なになに……? 心を込めたチョコレート、美味しかったかな? これからも友達としてよろしく! ニッコリ絵文字、と…………これは……」

「……友達として?」

 何やら不穏な空気が流れ出した。僕は千尋を見、千尋は僕の持っている「好きです」のカードを見る。

「…………筆跡、ちげぇな」

「……ああ」

「…………中に入ってたのが本人が入れたやつである可能性は高いな」

「……ああ」

「…………お前ほどの奴なら、大量のラブレターを貰っているわけで……つまり、どこかで異物混入よろしく紛れ込んではっついちまったと」

「……だろうな」

「…………顔色悪ぃぞ」

「……だろうな」




 それから一週間、僕の前でバレンタインやチョコレートは禁句になった。


fin.
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