赤髪と行く

□喧嘩
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この船に乗って更に1週間程経った頃…

少しづつこの船にも慣れてきた。
毎日が宴ムードのこの船で堅くなっている方が無理な話だった。

今では仲の良いクルー達と共にアルコール弱めのお酒を貰って楽しく談笑することも出来る様になった。

今日も昼間から酒を飲んでいる彼らの中に混じり、皆の話を聞いていた。



そんな中でいくつかこの摩訶不思議な能力について分かった事がある

・生命の維持に関わるような大怪我でないと治せない
・自分の怪我も治せない
・物凄い集中力が必要になる

(つまり日常生活では何の役にも立たない能力って事だよね)

しかし、ここまで来ると疑問が生じる
あの本のことだ。

「進化…ね」

進化とは一体何なのだろう?
今までの能力の使用は2回しかないが、猫も母も今までより力がついたという風には少なくとも見えなかった。

そしてもう一つ、
これが一番気になっていた事…

(死んでしまった人は、治せるのかな?)

あの本には命を吹き込むと書いてあった。
命を死んだ人に吹き込む場合はどうなるのだろう?

それが進化に関係してくるのかそれとも全く別の展開になるのか…

謎は深まるばかりでこれ以上考えると泥沼に嵌っていく感覚がして思考を止めた。




ふ、と視線を感じて顔を上げると不思議な物を見るような目であたしを見ているクルー達がいた

「え、何?」

「いや、なんかお前、ブツブツ呟いてるから、気分悪いのかと思ってよ…」

「嘘、そんな事言ってたの?
ごめん、気にしないで!」

慌ててその場を取り繕ったお陰で
どうにか不思議ちゃんにならずに済んだ。


ふと、思いついた様にクルーの1人が私に尋ねた。

「お前って何かとお頭に気に入られてるよな」

「ん?」

あ、それ俺も思ってた、と口々にクルー達が騒ぎ出す

「ちょっと待って、なんでそんな事になってるの?」

「いや、だって…」

言い出しっぺのスキンヘッドクルーに問いかければもごもごと口を動かして他のクルーに目をやれば、皆一様に下を向いた。

そこまで言われてしまえば気になるのが人間の性というもの。

ギロリと睨みつけ、理由を問いただせば、観念したように口を割った。

「だってよぉ、お頭がこの船に女乗せた事なんか今までなかったもんだからよぉ。」


「……それほんと?
あんたが乗船した頃までには1人か2人位いたんじゃないの?」


「なんだと!俺が新人みたいな言い方しやがって!喧嘩売ってんのか!!」

どうやら彼に喧嘩を売ってしまったらしい。
船でのキャリアはやはり大事なのだろうか?
海賊事情に詳しくないあたしは穏便に済ますため早々に謝ることにした。


これが世の中をうまく渡っていく1番良い手段だとあたしは思ってる。

「あー、ごめん、変な事言って。
ほら、気が動転してたからさ。」

今度はこちらが睨まれる番だった。


「それ、本気で思ってんのか?」

地雷だったらしい。

初めて彼が見せる怒りのオーラに背中に鳥肌が立つ。

他のクルー達も感じているらしく、誰も彼に対して口を開かなかった。

いや、開けなかった。

伊達にシャンクスの部下をやってる訳ではないらしく、人の本性を見分ける能力はずば抜けている様だった。

ゆらり、とあたしからしてみれば巨体が立ち上がった

殴られる、と思って、ギュッと目を閉じる。










「そこまでにしておけ」
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