赤髪と行く

□出港
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「ただいま」

「あら、おかえり!
もう夕方なのね?
ご飯にしましょーか!」

明日旅立つというのに母は呑気なものだ、と思わず笑ってしまう。

「リゼ!そこのお皿取って〜」

「はいはい…」

食器棚からお皿を取り出そうとした時、ふ、と奥に置かれた3枚セットの食器に目がいった。

こんなのあったっけ、
と思い返してみて、あぁ、と気がついた。

これはきっと父親の分まで入っている私達家族の食器だ。

恐らく買ったのは母だろう。

傷がひとつも付いてないところを見ると、ほとんど使った形跡がないようだった。

(もしかしたら、1度も使ってないかも…)

そう思った時、胸がチクリと痛んだ。

きっと今日しか聞く機会なんてないだろう。
そう思った私は口を開く。

「母さん、"父さん"の事、聞いてもいい?」

「……………」

重たい沈黙、だがそれもほんの数秒の事だった。

「そうね、リゼ
も大人だものね…」

しみじみと呟く母さんは、ほんの少しだけ老けて見えて、

少しだけ視界が滲んだ。

「じゃあ、夕食食べながら話しましょうか」



********



「お父さんと出会ったのは海の上だったの」

今晩の夕食はシチューだった。
幼い頃から大好きだったものだ。
具材の大きな肉を頬張っている時、母はそっと話し始めた。

「お父さんとはじめて出会ったのは海の上だったのよ」

「え」

「私が大体18くらいだったかな、
海の上の小さな島で暮らしてたんだけど、そこに父さんたちはやって来たのよ。」

「やって来たって事は島の人じゃなかったの?」

「そう、お父さんはね、

海賊だったの」

懐かしそうに目を細めて語る母。
そんな姿を見ながら、どこか納得したような感情が渦巻いていた。

「何となく、ほんとに何となくなんだけど、分かってたよ」

その言葉に少しだけ驚いた母は、

「そうだったの…
黙っててごめんなさいね。

あなたがもし私の話を聞いてお父さんに嫌悪感を抱いたらって思うと」

母はそこで言葉を切った。

言わなくたって分かる


「大丈夫だよ母さん。
でも、1度だけでもいいから、会ってみたかったなって、
思っただけ」

そう、と母はどこか安堵したような表情を見せた後、

そうだ、と呟いて母の自室へ戻って間もなく、ひとつの木箱を取り出してきた

「多分、見たらびっくりすると思うわよ」

ニコニコといいながら差し出してきたそれを受取れば、
思っていたよりもずっと軽かった。




そっと蓋を開けてみる。

「これ……」

それはネームタグのついたネックレスだった。

他の誰でもない、私の名前

"リゼ"

と書かれたそれを見れば、
いかに父が私を想っていてくれたのかがよく分かる。

「あんたの名付け親はお父さんなの」

そういって母は微笑んだ。

私を捨ててまで海に出た父親。
それでも私への愛情は計り知れなかった。

そのネームタグを握りしめ、
私は思う。




(あたしの事を想ってくれる人がいてくれた……)
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