仮面少女は王様の姉
□始まりの葉
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あれはほんの一瞬だった。
彼が上げたトスを誰も打たない。
マネージャーとしてベンチにいた飛鳥は、驚きはしたが、こうなることは予測していた。
「監督、セッターの交代をお願いします。」
「…わかった。」
交代してベンチに入ってきたのは、飛鳥の双子の弟、影山 飛雄。
早いトス回しとバレーの才能を持つ天才でもある。
「(母さん、これが才能に頼ったセッターの末路です。)」
北川第一男子バレー部決勝戦敗退。
しかし、ベンチに戻ってきたメンバーの顔は晴れやかだった。
「(飛雄には悪いけど、この事はセッター希望の後輩への指導にもなるし、教訓にもなる。)」
片付けの為、監督に任せて上に上がろうとすると
「飛鳥、お前は本当にあれでよかったのか?」
「…国見、気にしているの?」
声を掛けてきたのは、レギュラーの国見 英だ。
三年の中では、数少ない飛鳥の理解者でもある。
「あいつはお前の弟だ。俺たちに何か思わないのか?」
「…姉としては、こうなる事を事前に避けたかったよ。けど、何度注意しても聞き入れなかったのは飛雄。これを機に、成長すればいい。」
「マネとしては?」
「北川第一を何年も続く強豪にするには、後輩にそれなりの覚悟をさせる。
スパイカーの意思を尊重しないセッターは、戦力外だ。」
二人は話しながら観客席に向かう。
二人が通ると、他の中学がヒソヒソと話していた。
国見はチラリと飛鳥を見た。
飛鳥は表情が変わらない、それが国見にとって嫌な予感がした。